「一度独立した人間はもう会社員に戻れない」は本当か 元経営者が突きつけられた再就職の「市場価値」

   2024年から2025年にかけて退職代行サービスの利用増加や副業・独立の広がりが話題となるなど、転職市場の注目度は高い。総務省が2025年に公表した「労働力調査(詳細集計)」によると、転職等希望者は約1023万人と前年より約23万人増え、2年ぶりの増加となった。

   一方で、いったん独立した人が再び会社員として働こうとしたとき、「思わぬ壁」に直面するケースもあるようだ。

   31歳で独立し、経営者として事業を行っていた山田直樹さん(仮名・30代)は、ビジネスパートナーとのトラブルにより廃業を余儀なくされた。いまから3年前のことだ。

「生活もありますし、気持ちを切り替えて再就職しようと決めました」

   選んだのは、堅実な設備業界だった。

  • 元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)
    元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)
  • 元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)
    元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)
  • 元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)
  • 元経営者が直面した「再就職の壁」とは(写真はイメージ)

「独立した人は会社員に戻りにくい」と指摘する面接官

   面接に臨んだ山田さんは、過去の肩書きを強調するつもりはなかったという。

「これからは、組織の一員として協調性をもって働きたい。その覚悟でいました」

   面接官は50代半ばの男性。物腰は柔らかかったが、履歴書の「自営業」という文字に目を留め、こう指摘した。

「正直に申し上げますが、一度『独立』を知った人は、会社員には戻りにくいと思うんですよ」

   山田さんは、即座に否定する。

「過去にはこだわりはありません。一から学びます」

   しかし面接官は、穏やかな口調で続けた。

「頭ではそう思っていても、身体が拒否するんです。裁量をもって仕事をしていた方が、組織のルールに従うのは想像以上に苦痛なはずです」

   さらに、「山田さんの『個の強さ』が、うちの組織ではミスマッチになる可能性がある」と伝えられたという。

「悪意は感じませんでした。ただ、『元経営者』という経歴そのものが弊害になっていると思いました」

経歴は「武器」にも「弱点」にもなるのか

   結果は、不採用だった。

   誠実に対応されたからこそ、山田さんは「現在のやる気よりも、過去の肩書きが先に見られた」と考えたそうだ。

「熱意を伝えても、経歴のイメージが先行してしまう感覚でした」

   しかし、その後の就職活動では状況が一変した。

   別の設備会社からは、独立経験を「行動力がある」と評価され、採用が決まったのだ。始めはアルバイトとして勤務し、2025年4月から正社員として働いている。

「独立経験は扱いにくいと見られることもあれば、強みとして受け入れられることもあります」

   人材採用の現場では、経営経験者に対して「裁量志向が強い」「組織になじめるか不安」といった懸念が語られることもある。一方で、主体性や実行力を評価する企業も少なくないという。

「再挑戦する人が『戻れない人』と決めつけられるのはつらいです。でも、見る側の視点が違えば、評価も変わることが分かりました」

   副業や独立が珍しくなくなった時代だからこそ、キャリアの選択肢は一方向ではない。独立から会社員への「再転身」を考える人は、経歴の伝え方や企業との相性を慎重に見極める必要がありそうだ。

   「一度外に出た人は戻れない」という思い込みが、知らず知らずのうちに機会を狭めていないか――。企業側も、求職者側も、改めて向き合うべきテーマといえるかもしれない。

姉妹サイト