職場のハラスメントといえば、パワハラやセクハラが思い浮かぶ。しかし近年は、「スメルハラスメント」という言葉も広まりつつある。ニオイの問題は目に見えないだけに、対応が難しいケースもあるようだ。厚生労働省が2024年12月に公表した資料によると、2023年度の総合労働相談件数は約121万件にのぼり、そのうち「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は8万件を超えている。職場環境をめぐる相談は、依然として高い水準で推移している。働く環境への意識が高まる中、ニオイをめぐるトラブルも見過ごせないテーマだ。2023年、都内で契約社員として働いていた佐藤美咲さん(仮名・30代)は、職場のニオイをきっかけに退職を決意した。室内に漂う強烈なニオイ「部屋に入った瞬間、空気が重いと感じました」喫煙所はオフィス外にあったが、同じ階に設置されており、勤務中にタバコ休憩を取る人も少なくなかった。室内には、タバコとコーヒー、さらに体臭が混ざったようなニオイが漂っていたようだ。「そのうち、慣れると思っていたんですが......」マスクを着用し、休憩時間には外の空気を吸いに出ていた佐藤さん。マスクに香水をつけて紛らわせたこともあった。しかし、日が経つにつれて体調に変化が出始めたそうだ。「勤務中に頭痛がして、気分が悪くなることが増えました」出勤すること自体が負担になっていった。相談することも考えたが、部署の雰囲気的に言い出せなかったという。佐藤さんは就業開始から約2か月後、退職を決意した。「行動が異常だ」と指摘され...佐藤さんは、契約元の会社と雇用契約を結び、実際の業務は別の配属先で行う勤務形態だった。本来であれば、退職の意思はまず契約元へ伝える必要があった。しかし、「引きとめられるのではないか」という思いから、配属先の部長へ先に伝えた。その際、退職理由については詳しく説明しなかった。ニオイの問題を持ち出しても、理解されないのではないかと感じていたためだ。後日、契約元の担当者とのオンライン面談が行われた。「なぜ、手順を守らなかったのか」「行動が異常だ」強い口調で、そう指摘されたという。理由を十分に伝えていなかったこともあり、「精神的に不安定なのではないか」と受け止められてしまったと思ったそうだ。佐藤さんは、「ショックで、本当の理由は言えませんでした」と振り返る。ニオイによる体調不良が退職理由だった。しかし、それをうまく説明できなかったことで、結果的に「手順を踏まない行動」にだけ焦点が当たり、こういう事態になってしまった。「あのとき、きちんと理由を伝えられていれば、違ったのかもしれません」転職や就活の場面では、仕事内容や待遇だけでなく、職場環境も重要な判断材料になる。違和感を覚えたときは、記録に残し、契約内容を確認しながら冷静に相談することも必要だ。
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