「巷でよく言われる『中年になるとガクッと体力が落ちる』というやつが、二十一歳で来てしまった」
これは、文筆家「絶対に終電を逃さない女」さん(終電さん)のエッセイ「虚弱に生きる」(扶桑社)の書き出しだ。20代なのに老人並みの体力、1日8時間が働けない......不調は続くが、その根本的な原因はわからない――。そんな「虚弱体質」な著者のこれまでがつづられている。このエッセイがSNSを中心に話題になっており、特に共感する声が目立つ。
なぜ今、虚弱体質が共感を呼ぶのか。当事者や識者と全3回シリーズで考える。初回は、発端となったエッセイの著者、終電さんに、自らの経験や書籍への思いを聞いた。
SNS中心に注目、発売から4か月で累計4万部
著書によると、終電さんはもともと体が強くはなかったというが、20代前半のころに過眠と入眠困難を併発。睡眠中の食いしばりが酷く、肩や首の凝りにも悩まされた。また、以前から続いていたという倦怠感や抑うつ状態も悪化。ほかにも腹痛、痔、発熱、パソコンの画面を見続けると発症する頭痛や腰痛、集中力の低下など――、さまざまな症状に悩まされた。
しかし終電さんは、これらの原因として思い当たるような大きな身体疾患を患っているわけではない。甲状腺疾患や膠原病の検査を病院で受けたが、異常なしの結果だったという。
「虚弱に生きる」には、終電さんのこうした虚弱体質に振り回された20代前半、少しでも健康に過ごすための試行錯誤、虚弱体質の原因についての彼女なりの分析などがつづられている。SNSを中心に徐々に注目を集め、発売から約4か月で10刷が決定、累計4万部を突破した。
今では虚弱体質の第一人者的な扱いを受けることが多い終電さんだが、インタビューでは、「私自身は大したことしてないのになって思っています。周囲の人に提案してもらって、じゃあやってみようかなと思って書いているだけなので」と謙虚に話す。
「100万部売れて国会で取り上げられてほしい」
そもそも、なぜ「虚弱」という言葉を使ったのだろうか。
終電さんは、「私が言い出したというよりは、虚弱って言われて、だから自分でも虚弱って言ってみよう、みたいな」と説明する。終電さんによると、24年に同じく虚弱体質であるライター・ヒオカさんから、「虚弱対談」をしようと声をかけられたことが最初だった。その対談記事を見たという編集者からも、「虚弱体質についてのエッセイ」の執筆依頼があったという。
終電さんは著書で、虚弱体質の原因について、幼少期の家庭環境や発達特性なども含めさまざまな可能性を挙げているが、結局はわからないとしている。今後、根本原因や疾患が見つかる可能性もあるが、時間的にも経済的にも余裕がなくすべての可能性は調べられないため「厳密には虚弱体質と断定はできない」とし、「暫定的」に虚弱という言葉を使うとしている。インタビューでも、「(虚弱を名乗って)いいのかなという思いはずっとあります」と明かした。
一方で、「虚弱っていう言葉がないと全然聞いてもらえなかったし、広まらなかったので、使う意義はちゃんとあると思います」と指摘した。
SNSにはフルタイム労働が基準になっている世の中に疑問を呈するような内容の感想も寄せられており、終電さんは「もしかしたら社会が変わるんじゃないか」とも。
虚弱体質の発信を通じて今後やりたいことを尋ねると、「虚弱仲間の作家さんと話していたのですが、100万部売れて国会で取り上げられてほしいって。政策に影響を与えるまでになったらいいなと思います」と話した。
虚弱エッセイ「大事な人を理解するために読んでくれることも」
SNSで話題になり、共感の声などが寄せられることについては、「『自分を責めずに済むようになった』という声を聞くと、書いてよかったなと思います」と明かす。
読者のなかには当事者だけではなく、家族が虚弱の人も見られ、終電さんは「大事な人を理解するために読んでくれることも割とあって」「そういう素敵なことに自分の本が使われることは、すごく嬉しい」と喜んだ。
自身としても、周囲から虚弱体質について理解を得られやすくなった実感があるという。例えば友人から「今日暇?」といった連絡が来たとき、終電さんは「予定があるかないかでいえばないんだけど、その日は休みたいという日」の説明に困っていた。
「体力がない」と説明しても「まだ若いじゃん」と言われ、もう少し踏み込んで「体力がなくて1日数時間しか働けない」「すぐに体調が悪くなるし膝も痛い」などと話すと、相手は笑うことができず気まずい雰囲気になってしまったこともしばしばだった。
それが、エッセイで発信してからは「虚弱なので」の一言で伝わるようになったという。「これまで身近な人にも誰にも理解してもらえなかったことが、やっと理解してもらえるようになった」と話した。
「虚弱」から取りこぼされてしまう人への懸念も
一方で、虚弱体質が広く知られることによるデメリットについては、次のように話した。
「『この程度では虚弱じゃない』『ここからが虚弱だ』というふうに線引きを巡って争いが生まれたり、虚弱の定義とか範囲のようなものがなんとなく決まっていってしまった先に、『虚弱』からも取りこぼされてしまう人が出てきたりする」
そして、虚弱から取りこぼされてしまった人にとっては、「虚弱が広まる前よりも、社会に居場所がないような苦しさを味わうことになってしまう」ケースも出てくるのではないかと懸念する。
実際にSNSで投稿されるエッセイの感想の中には、「ジョギングができているなら虚弱じゃないじゃん」「私は虚弱だと思っていたけど、一応フルタイムで働けているから全然虚弱じゃなかった」といった声もあったという。
また終電さんは、虚弱体質への向き合い方についても、「努力しないのは怠惰」といった風潮になることを危惧している。
「頑張らない」という選択肢も堂々と発信してほしい
「『努力していて偉い』は往々にして、『努力しないのは怠惰』に転じる危険性をはらんでいる」
これは著書の中の一文だ。終電さんが健康に向き合い食事や運動をしている姿勢を「偉い」とする声が少なくない数寄せられたが、終電さんは同じような体質の人に「自分も頑張らなきゃ」とプレッシャーに感じてほしくないと呼びかけている。
しかし、著書にそう書いてもなお、「努力していて偉い」といった感想は寄せられるという。
SNSに投稿された感想の中に、自身も虚弱体質だが、通院する体力や金銭面での消耗を考慮し、健康のため「頑張らない」選択肢をとった、との感想があったという。終電さんは、このような努力しない選択肢を堂々と発信できるようになってほしいとした。
終電さんも20代前半の頃は、健康のための努力をしていなかった。メンタルの落ち込みなどから、健康になろうという気になれなかったのだと振り返る。大きな転機は、眼鏡をかけるようになったことで不眠症が改善したことだった。「このままだと何もできない」という思いものしかかるようになり、健康のための努力を始めたという。
終電さんは、健康のために動けない状態から抜け出すことは「簡単なことじゃない」とし、同じような状況にいる人に向けて、
「抜け出せないっていう事実に罪悪感を感じないでほしいです。抜け出せないのは仕方ない――諦めじゃなくて、自分を責めるようなことではない......、というスタンスを保ったまま、抜け出す方法を考えていくというのが大事なんじゃないかなと思います」
と話した。
【予告】連載の第2回は、「虚弱体質」の当事者たちを取材し、詳しい実態や胸の内を尋ねました。3月21日正午に掲載予定です。