アメリカ・トランプ大統領の口から飛び出した「日本はホルムズ海峡を自力でなんとかしろ」という趣旨の発言が波紋を広げている。アメリカが世界の警察官としてシーレーン(海上交通路)を守る時代は終わり、同盟国にも「自前で守るか、対価を払え」と迫る、いかにもトランプ氏らしいディールの姿勢だ。中東からの原油輸入に9割以上を依存している日本は、これに対してどのような態度を取るべきなのだろうか。もし日本がイランと交渉したらどうなる?イラン情勢が悪化するなか、高市早苗首相はホルムズ海峡への自衛隊派遣について、「日本の法律の範囲内でできることと、できないことがある」と述べた。一方、イランのアラグチ外相は日本を名指しし、もし日本が原油を手に入れるために交渉してきた場合「イランは通過を支援する用意がある」と秋波を送る発言をしている。イランは長年、アメリカから強力な経済制裁を受けている。とはいえ、日本企業が大規模にイランと経済取引や原油の直接購入を行えば、アメリカの二次制裁の対象となりかねない。そのため、日本政府としては、アメリカの制裁を真っ向から破るような原油取引の再開には到底踏み切れないのが現実だ。では、もし日本が独自にイランとの交渉を始めた場合、トランプ大統領は激怒するのだろうか。トランプ氏の「自国の船は自分で守れ」という発言は、裏を返せば「アメリカはもはや他国のシーレーンを無償で守るつもりはない」というコスト削減の宣言でもある。したがって、日本が独自のルートでイランと交渉し、「日本のタンカーだけは攻撃しないでほしい」という限定的な安全確約を取り付けるだけであればどうだろうか。これはアメリカの経済制裁を破る行為(原油の購入など)には当たらない。むしろ、「日本が自ら安全を確保し、アメリカ軍の負担が軽減された」と解釈される余地がある。ビジネスマンであるトランプ氏からすれば、同盟国が自立してコストを肩代わりすることは、彼の「アメリカ・ファースト」の理念にも合致するはずだ。日本がイランから特別扱いを受けた理由ところで、なぜイランは日本に対して特別扱いとも受け取れる発言をしたのだろうか。日本にはイギリスやフランス、アメリカのような「中東での植民地支配の歴史」がなく、キリスト教対イスラム教といった宗教的なしがらみからも比較的自由である点は挙げられるだろう。しかし、最も大きな要因は、1953年の「日章丸事件」ではないだろうか。イギリスの巨大石油資本による石油利権の独占に反発したイランが石油を国有化すると、イギリスは軍艦を派遣し、中東の海を事実上封鎖した。世界中がイギリスの軍事力を恐れてイランから石油を買わないなか、日本の出光興産は自社タンカー「日章丸」を極秘裏に派遣した。イギリス海軍の厳重な監視網をかいくぐり、命がけでイランの石油を日本に持ち帰ったこの歴史的快挙は、イラン国内で「大国イギリスの不当な支配に一矢報いた」と称賛されたのだ。「交渉に応じてもいい」イランのしたたかな本音一方で、イランの「交渉に応じてもいい」という態度の裏には、したたかさも見え隠れする。言うまでもなく、イランにとって日本は重要な「顧客」である。アメリカの厳しい経済制裁により、現在のイラン経済は大きな制約を受けている。そのなかで、日本と将来的な原油取引につながれば、その利益は非常に魅力的だ。さらに、アメリカの最も重要な同盟国でありながら、イランに対して歴史的な好意とパイプを持つ日本は、交渉相手としても都合がよい。事実、2026年4月5日までに、商船三井と同社の関連会社が保有する計2隻の船がホルムズ海峡を通過した。LNG(液化天然ガス)船とLPG(液化石油ガス)船だという。トランプ大統領の突き放した態度と、イランからの秋波。エネルギー不足に悩む日本は、この複雑な状況の中心に立たされている。
記事に戻る