静岡県伊東市の前市長・田久保真紀氏に、ニセ卒業証書の疑惑が浮上していた。静岡地検は2026年3月30日、田久保氏を有印私文書偽造・同行使および地方自治法違反の罪で在宅起訴した。なお、田久保氏は昨年10月31日に失職し(12月14日の市長選で落選)、その退職手当、いわゆる退職金は約192万円とされる。昨年11月26日時点で一時差し止めとなっているが、市の条例によれば、今回の容疑で拘禁刑以上の刑などに至らなかった場合には、退職金は支払われる見込みだという。なぜ不祥事を起こした首長でも退職金がもらえるのか自らの不祥事やスキャンダルで世間を騒がせ、任期途中で辞職する地方自治体のトップが、多額の退職金を受け取るケースはこれまでも少なくない。市政や県政に混乱を招いたにもかかわらず、なぜ退職金が支給されるのか。刑事事件に関しては、日本の法制度では、有罪が確定するまでは無罪と推定される「推定無罪」の原則がある。そのため、起訴段階や社会的批判が高まっている段階では、それだけを理由に退職手当を不支給とすることは難しい。さらに、退職金自体の性格も影響している。退職手当は一般に、功労報償的性格と賃金の後払い的性格の双方を持つ。一定の在職実績に基づいて支給される制度であるため、不祥事のみを理由に全面的に否定するには慎重な判断が求められる。ただし、これは民間企業の労働者における解釈であり、首長などの特別職地方公務員にそのまま当てはめることには議論の余地がある。刑事罰に至らない場合、退職金の返還は求められないでは、公務員の退職金に関するルールはどうなっているのか。地方自治体の退職手当制度は、多くの場合、国家公務員の制度を参考に各自治体が条例で定めている。多くの条例では、在職中の行為について一定以上の刑事罰が確定した場合に、不支給や返納の対象とする仕組みが採用されている。このため、明確な犯罪で有罪となった場合には退職手当の減額・不支給が可能だが、刑事罰に至らないハラスメントや倫理問題については対応できないケースが多い。この点については、政治的・道義的責任と法的責任の間にギャップがあるとの指摘もある。当然ながら、首長の退職金は市民の税金から支払われる。さらに、不祥事によって任期途中で辞職した場合、自治体は予定外の選挙費用と退職金という二重の財政負担を強いられる。これでは首長だけが「辞め得」になるとの批判が出るのも無理はない。福井県「セクハラ」前知事の退職金は約6162万円、返還の意向は一部現状の法制度では、有権者が不祥事を起こさない人物を選挙で見極める以外に有効な防止策がなく、極めて理不尽な状況にあるともいえる。一方で、自治体単位で対応を強化する動きも出ている。顕著な例が、昨年12月に県職員へのセクシュアルハラスメント問題で辞職した福井県の杉本達治前知事のケースである。辞職した杉本氏には、福井県の条例に基づき退職金約6162万円が支給された(その後、杉本氏は1500万円を返納する意向を示した)。こうした事情を受け、福井県では3月18日の県議会で、懲戒免職や停職に相当すると認定され、議会の議決を経た場合に退職金の返還を求めることができる条例改正案が可決された。こうした動きは注目に値するが、退職手当の問題だけでなく、首長の職務倫理そのものが問われるべきだろう。
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