相続では、残された財産だけでなく、生前にどのようにお金が使われていたかも問題となる。家族が把握していない支出がある場合、相続後にその実態が明らかになり、手続きや話し合いが難航することも少なくない。今回は、家族が知らぬ支出の実態が判明し、相続人の対立に発展したケースを取り上げ、FP(ファイナンシャル・プランナー)が解説する。
通帳をさかのぼって気づいた、毎月20万円の「見慣れない支出」
50代の男性会社員からこんな相談を受けた。それによると、父親が亡くなり、相続手続きを進める中で、預金口座の通帳を確認していたときのことだった。
最初は残高や入出金の全体を見ていたが、途中である動きに気づいた。毎月ほぼ同じ時期に、20万円前後の振込が続いていたのだ。一度気になると手が止まり、過去のページをさかのぼって確認した。すると、同じ振込が何年も続いている。
振込先の名義は、家族や親族には該当しない個人名だった。
過去の通帳も取り寄せて確認したところ、この振込は少なくとも5年以上続いており、総額は1000万円を超えていた。この時点で、相談者は「単なる生活費ではない」という認識に変わったという。
家族に確認しても心当たりはなく、遺品や携帯の履歴などを一つずつ確認していく中で、振込先の人物が父親と個人的に交流していた相手であることがわかった。やり取りの内容から、交際関係にあった可能性が高く、継続的に金銭が渡されていたと考えられた。
この事実が明らかになり、相続人たちの間に流れる空気が一気に変わる。話し合いも、次第に感情的なやり取りへとエスカレートしていった。
「こんな大金を知らないところで使われていたのは納得できない」「本人が自分で使ったお金なら仕方ないのではないか」
意見はかみ合わず、同じ論点を繰り返す状態が続いた。「このまま何もしないのか」「現実的にお金を取り返せるのかを考えるべきだろう」といった声も上がり、金額の問題だけでなく、知らされていなかったことへの不信感も重なり、話し合いは徐々に険しいものとなっていった。
最終的には、「この1000万円超をどう扱うべきか」を専門家に相談することとなる。
そこで示されたのは、「返還を求めるには当時の状況を示す証拠が必要であり、それが十分でない場合は難しい」という見解だった。さらに、請求を行った場合でも解決までには時間と費用がかかる可能性があると説明された。
状況によっては生前贈与や不当な支出として、返還請求できるケースもあるが、今回はその判断に足る証拠がそろっていないと考えられた。
こうした事情を踏まえ、これ以上の対立を続ける負担も考えた結果、過去の支出については返還請求を行わず、「すでに使われた財産」として整理する判断となった。
想定していたよりも相続財産は大きく減っており、その影響は各相続人の取得額にも大きく及んだ。(※プライバシー保護の観点から内容を一部脚色している)