通勤や旅行などで利用する電車内では、思いがけないトラブルに巻き込まれることがある。
混雑した車内では、ちょっとした不注意が周囲の乗客に迷惑をかけてしまうケースも少なくない。しかし、中には迷惑をかけても謝罪ひとつなく、その場をやり過ごそうとする人に遭遇することもある。
佐藤直樹さん(仮名・30代)は、日帰りでスノーボードを楽しんだ帰り道、そんな出来事を体験した。
バッグがビールまみれに...それでも男性は「何事もなかった顔」
その日は、スノーボードを楽しんだ帰りだった。
新幹線から在来線へ乗り換えた佐藤さんは、大きなダッフルバッグを足元に置き、帰宅ラッシュで混雑する車内に立っていた。
「朝から滑っていたので、もうヘトヘトでした。早く帰りたい、そのことしか考えていませんでした」
電車が駅に停車すると乗客が入れ替わり、隣には50代くらいの男性が立った。男性の手には、ビールのロング缶が握られていたという。
「イヤな予感はしました。でも疲れきっていて、場所を移動する気力もなかったんです」
イヤホンで音楽を聴きながら窓の外を眺めていると、突然「バタン」という鈍い音が聞こえた。視線を向けると、床には転がったビール缶。その中身が勢いよく流れ出ていた。
「慌ててバッグを持ち上げましたが、もう遅かったです。ダッフルバッグはビールを吸ってしまって、床にぽたぽたと垂れていました」
佐藤さんは、思わず男性を見つめた。当然、「すみません」のひと言があるものと思っていた。しかし――。
「男性はビール缶を拾うと、何事もなかったように、窓の外を見はじめたんです」
謝罪も、気づかう様子もなかったそうだ。
「正直、『いや、これは謝るでしょう』と思いました」
車内に広がるビールの匂いに「怒る気力もなくなった」
混雑した車内では、こぼれたビールが床を伝い、周囲の乗客も足元を気にするようになった。どよめきが起きたものの、男性は頑なに無言を貫いたという。
「文句を言おうかとも思いました。でも、疲れていたこともあって、何を言えばよいのか分からなくなっていました」
バッグには、ビールの匂いが染みついていた。
「お気に入りのバッグだったのでショックでした。汚れよりも、謝罪すらなかったことが一番引っかかっています」
結局、佐藤さんは次の電車へ乗り換え、気落ちしたまま帰宅した。
「あの日以来、公共の場でお酒を持っている人を見ると身構えるようになりました」
混雑時は思わぬ事態につながることもある。万が一、周囲の人に迷惑をかけてしまった場合は、まず謝罪し、状況に応じて対応することが、公共交通機関を利用するうえで欠かせないマナーだろう。