W杯アルゼンチン選手が政治的な横断幕→決勝出られない? 五輪サッカーでも韓国選手が領土主張を掲げたが

   いよいよ大詰めとなったサッカーワールドカップ(W杯)。7月15日(日本時間16日)、アメリカ・アトランタで行われた準決勝で、アルゼンチンがイングランドを2-1で下し、2大会連続の決勝進出を決めた。

   0-1で劣勢だったアルゼンチンが後半40分、そしてアディショナルタイムに得点を重ねての劇的な逆転勝利──だが、世界の注目は別のところに集まっている。

  • W杯準決勝の試合後、アルゼンチン選手が掲げた横断幕(写真:ロイター/アフロ)
    W杯準決勝の試合後、アルゼンチン選手が掲げた横断幕(写真:ロイター/アフロ)
  • 2012年のロンドン五輪サッカー男子3位決定戦。韓国の朴鍾佑選手が掲げた「独島は我が領土」のプラカード(写真:AP/アフロ)
    2012年のロンドン五輪サッカー男子3位決定戦。韓国の朴鍾佑選手が掲げた「独島は我が領土」のプラカード(写真:AP/アフロ)
  • W杯準決勝の試合後、アルゼンチン選手が掲げた横断幕(写真:ロイター/アフロ)
  • 2012年のロンドン五輪サッカー男子3位決定戦。韓国の朴鍾佑選手が掲げた「独島は我が領土」のプラカード(写真:AP/アフロ)

英首相官邸「W杯は獲れずとも、フォークランド諸島は我々のものだ」

   この試合後、ジョバニ・ロ・セルソが観客席から横断幕を受け取り、リサンドロ・マルティネスやクリスティアン・ロメロら複数の選手とともにスタンドに向けて掲げた。

   そこには「Las Malvinas son Argentinas(マルビナスはアルゼンチンのもの)」と書かれていた。

   マルビナスとは、イギリス領フォークランド諸島のアルゼンチン側の呼称である。

   アルゼンチンとイギリスの間では、1982年にこの諸島の領有権をめぐって74日間の紛争が勃発し、両国で多数の戦死者を出している。

   今回の行動は、そんなイギリスの構成国であるイングランドを破った直後の行動だったのだ。

   イギリスのカイル事業・貿易相はFIFA規則への「ひどい違反」と非難し、退任を目前に控えるスターマー首相の官邸も、

「W杯は我々のものにならなかったかもしれないが、フォークランド諸島は間違いなく我々のものだ」

との皮肉まじりの声明を出した。

   一方、アルゼンチンのミレイ大統領は選手たちの行為を「まったく正当」と擁護している。

   また、アルゼンチンにとって、この違反は初めてのことではない。

   2014年6月、ブラジルW杯の壮行試合としてブエノスアイレスで行われたスロベニアとの親善試合でも、同じ文言の横断幕を掲げ、アルゼンチンサッカー協会(AFA)に罰金が科されている。

   さらに、今大会の準々決勝スイス戦後、ロッカールームで「Por Malvinas, por el Diego, por la última de Leo(マルビナス=フォークランド諸島のため、ディエゴのため、レオ=メッシ最後のW杯のために)」と歌う様子がSNSで拡散されたばかりだ。

   FIFAは、スタジアムでのスポーツイベントにふさわしくないメッセージ、とりわけ政治的、思想的、宗教的、または攻撃的な性質のものを禁じており、16日に規律委員会が試合報告書を精査していると表明した。

スペインのロドリ&モラタ、韓国の朴鍾佑は出場停止に

   ここで思い出されるのが、皮肉にも19日(日本時間20日)に行われる決勝の相手・スペインの前例だ。

   EURO2024でイングランドを破って優勝したスペイン代表のスター、ロドリとアルバロ・モラタは、マドリードのシベーレス広場で行われた祝勝イベントで「ジブラルタルはスペインのもの」とチャントを歌い、欧州サッカー連盟(UEFA)から1試合の出場停止処分を受けた。

   また、日本のサッカーファンなら、2012年ロンドン五輪の3位決定戦・日本戦後に「独島(竹島)は我が領土」のプラカードを掲げ、FIFAから国際Aマッチ2試合(2014年W杯予選)の出場停止を受けた韓国の朴鍾佑(パク・チョンウ)の事例を記憶している人も多いだろう。

   これらのケースと同じ基準を当てはめれば、政治的な横断幕を掲げたアルゼンチンの主力たちは、決勝のピッチに立てない可能性も出てくる。

トランプの圧に屈した? FIFA規律委員会にスター選手を裁けるか

   今大会は、FIFA規律委員会にとっても受難の大会かもしれない。

   決勝トーナメント1回戦、アメリカはボスニア・ヘルツェゴビナに2−0で勝利した。

   しかし、そのなかでアメリカのフォラリン・バログンがレッドカードを受けて退場処分となり、規定により次の試合も自動的に出場停止となるはずだった。

   その判定をめぐり、トランプ大統領がFIFAのインファンティーノ会長に処分の見直しを求め、規律委員会は規律コード第27条を適用して出場停止処分の執行を「1年間猶予」するという前代未聞の裁定を下したのだ。

   開催国のひとつであるアメリカの圧に屈したともとれるこの裁定に、UEFAは「レッドラインを越えた」「前例がなく、理解しがたく、正当化もできない決定に驚愕している」と強い言葉で反発した。

   また、イギリスの『タイムズ』紙は、この決定が規律委員長モハメド・アル・カマリ氏(UAE)の単独判断で、他の17人の委員には相談すらなかったと報じている。

   インファンティーノ会長は、この件で電話を受けたことを認めつつも、「判定の見直しは独立した機関が行うもので、自分は介入していない」と関与を否定している。

   ともあれ、こうした状況下でFIFAの規律委員会が、アルゼンチンのスターたちを裁けるのだろうか。日本時間7月19日16時現在、明確な処分は下されていないもようだ。

   現状では、FIFAが厳罰に踏み込むと予想する識者は少ない。

   アメリカの老舗スポーツ誌『Sports Illustrated』は「今回のケースで即座に処分を下せる可能性はほぼゼロだ。(FIFAがもし厳罰を科したくても)目玉イベントを前に混乱を招くような事態を避けるため、より慎重な姿勢を取るだろう」と論じている。

   「政治的中立性」の理念を重んじるか、商売としてのW杯を重んじるか、FIFAの判断に注目が集まる。

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