音の匠にきく 補聴器の技術が生きるカスタムIEMの耳型採取
東京ヒアリングケアセンター 菅野 聡氏

    ヘッドホンやイヤホンの良い製品を追い求めていくと、必ずと言っていいほど出会うのが、カスタムIEM(イン・イヤー・モニター)、あるいはカスタムイヤホン、カスタムイヤモニと呼ばれている製品です。

    カスタムIEMは、ミュージシャンがステージ上の大きな音の中でも、自分の楽器や声、他楽器とのミックスバランスをしっかり聴けるプロ用のツールとして使われてきました。ひとりひとりの耳穴にシリコンを流し込んで耳型を採り、それぞれにぴったりの筐体(シェル)にすることで、遮音性も装着性も格段に良くなるのです。

    こうしたプロの現場で使われてきたカスタムIEMは国内外のメーカーから発売されていますが、オーディオファンからも自分だけにカスタマイズできるイヤホンとして注目を集めており、そのひとつが、ソニーの「テイラーメイドイヤホン Just ear」です。

    カスタムIEMの製作に欠かせないのが、前述のとおり、耳型を採ることですが、これには非常に高度な技術が要求されます。Just earは補聴器専門店東京ヒアリングケアセンター ® を運営するヴァーナル・ブラザースと提携し、認定補聴器技能者である菅野 聡(すがの・さとし)氏が耳型採取を行ってきました。

    今回の「音の匠にきく」では、どのような経緯でJust earが補聴器専門店とタッグを組んだのか、耳型採取という技術がどういったものなのかといった貴重なお話を菅野氏にうかがいました。

インタビュアー・野村ケンジ

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2006年にオープンした東京ヒアリングケアセンター 青山店はヴァーナル・ブラザースの2号店となる。美容室やカフェのような、リラックスできる落ち着いた雰囲気の店内。
2006年にオープンした東京ヒアリングケアセンター 青山店はヴァーナル・ブラザースの2号店となる。美容室やカフェのような、リラックスできる落ち着いた雰囲気の店内。
菅野氏は年間最高1,000人以上の耳型採取を行ってきたイヤーフィッティングのスペシャリストだ。
菅野氏は年間最高1,000人以上の耳型採取を行ってきたイヤーフィッティングのスペシャリストだ。

理想の補聴器を提供するために設立した

    ――まずは、東京ヒアリングケアセンターがいつ、どういった経緯で設立されたかを教えてください。

    会社としてはヴァーナル・ブラザース、店舗としては東京ヒアリングケアセンター青山店となっておりまして、どちらも1995年に私の父が設立したものです。きっかけとなったのは、当時国内電気メーカーに勤めていた父(菅野利雄氏)が、日本国内に良質な補聴器がないことを残念に思い、自分の手でどうにかできないか、と考えたのがきっかけでした。なぜ補聴器に着目したのかと言いますと、祖父母(菅野利雄氏の両親)が難聴ではあるものの、なかなか満足する補聴器を手にすることが出来なかったことを目にしていたからです。生活の一部に聞こえの悩みがあったわけですね。そして、父は勤めていた会社を辞めて補聴器専門店を設立しました。その後、私も事業に加わり、今年で創業25年目に入りました。

    ――日本に良質な補聴器がない、というのは具体的にどういった状況だったのでしょうか。

    言葉のとおり、当時の技術では性能の良い補聴器がなかったのは確かなのですが、それ以上に、ユーザーの意識、メーカーや技能者の製品提供の手段が適切でなかったことで、満足のいく製品がなかなか手に入らなかった、というのが実情でした。例えば、近年実施された補聴器ユーザーに対するアンケートを見ると、海外では80%ほどの人が満足していると答えたのに対して、日本では30%くらいの人しか満足していませんでした。ここまで大きく満足度が異なる理由はシンプルで、日本では補聴器をモノ、単なる製品としてだけ見ている風潮があったためです。しかし、難聴の症状は人によって千差万別ですし、装着感も音もその人に合わせてきめ細やかにカスタマイズしていかなければなりません。さらに、使い続けていくうちに、様々な調整も必要になってきます。そういった、補聴器がベストな実力を発揮できるセットアップや、購入後のメンテナンスの重要性を伝えるために、私たちは事業をスタートしました。最近になってようやく補聴器業界でも"ケアが重要"と言われ始めてきましたが、東京ヒアリング"ケア"センター、という店名には、そういった思いが込められています。

    ――なるほど、補聴器は製品としての質はもちろんですが、それ以上にセットアップとメンテナンスが重要なのですね。

    はい、我々が現在ご提案している補聴器メーカーは、セッティングに関して様々なノウハウがあり、それらは十分に優れた、高度なものではあります。しかし、メーカーが用意したノウハウは、一定の計算式を基にしたものであり、一人ひとりにベストな製品を提供できるものではありません。聞こえ具合の状況に合わせた音の設定、フィット感の良い、それでいて装着時に痛みのない耳型を作るのは当然ですが、それに加えて、ユニットの位置を耳のどこにレイアウトするかなど、さらに細やかなつくり込みが重要となってきます。そういった、細部にまでわたったセットアップによって、理想の補聴器を作り上げることが東京ヒアリングケアセンターの得意とするところであり、25年にわたって培ったノウハウでもあります。実際、我々の製品に対するつくり込みが海外でも評価いただいておりまして、メーカーの担当者が来日し、我々の手法が新製品作りに反映されていたりもします。

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東京ヒアリングケアセンターで提供されている補聴器の一例。補聴器には複数のタイプがあるが、「耳あな型」というタイプはカスタムIEMと同じようにユーザーの耳型を採って作られる。
東京ヒアリングケアセンターで提供されている補聴器の一例。補聴器には複数のタイプがあるが、「耳あな型」というタイプはカスタムIEMと同じようにユーザーの耳型を採って作られる。
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