イヤホンの歴史 3  カナル型イヤホンの誕生 ~なぜ「耳栓型」イヤホンは広まったのか~

ダイナミックドライバー搭載市販モデルとして世界初となる「MDR-EX70」シリーズが登場

    そして1999年には、ソニーからダイナミックドライバーを搭載したリスニング向けカナル型イヤホンが、世界に先駆けて発売されました。それが「MDR-EX70」シリーズです。こちらの製品は、新たに開発した9mm口径の小口径ダイナミック型ドライバーを搭載しており、BA型を採用しているステージ用モニターイヤホンとは異なる成り立ちを持っているのが特徴です。実は、Etymotic Research社やUltimate Ears社などのステージ用モニターイヤホンは、部品として高価なBA型ドライバーを搭載していることや限定された用途(と生産数)のため、かなりの高額製品となっていました。それに対して「MDR-EX70」シリーズは、リスニング用として購入しやすい現実的な価格で展開してきたのです。それにより、リスニング向けカナル型イヤホンという新しい潮流が誕生しました。

写真はソニーの「MDR-EX70」シリーズ。約4グラムと軽量で、シリコンゴム製イヤーピースが付属。迫力ある重低音を実現した。手頃な価格で、国内だけでなく海外でも人気機種となった。写真提供:ソニー
写真はソニーの「MDR-EX70」シリーズ。約4グラムと軽量で、シリコンゴム製イヤーピースが付属。迫力ある重低音を実現した。手頃な価格で、国内だけでなく海外でも人気機種となった。写真提供:ソニー

    その後、2000年代に入ってからはステージ用モニターイヤホンをリスニング用高級製品として活用するブームや、各社がカナル型イヤホンの優位性に気付いてダイナミック型ドライバー搭載モデルを発売するなど、製品数が一気に拡大し、爆発的にシェアを拡大していきました。 そのなかには、SHURE「E2c」など(ステージ用モニターイヤホンでありながらも)ダイナミック型ドライバーを搭載した製品もあり、各社が互いの影響を与え合ってきたことがうかがえます。こうして、カナル型はイヤホンの主役に躍り出ることとなったのです。

2003年に国内で発売され、iPodを始めとするデジタルオーディオプレーヤーの普及も相まって、大人気となったSHUREの「E2c」。イヤホンのコードを耳の後ろに掛けて装着する「シュア(SHURE)掛け」も広まった。写真提供:完実電気
2003年に国内で発売され、iPodを始めとするデジタルオーディオプレーヤーの普及も相まって、大人気となったSHUREの「E2c」。イヤホンのコードを耳の後ろに掛けて装着する「シュア(SHURE)掛け」も広まった。写真提供:完実電気

BA型ドライバーの小型軽量さを活かしてステージ用モニターイヤホンには多数搭載されている。リスニング用の高級イヤホンとしても人気が集まっており、代表例のひとつがSHUREの現行機種である「SE535」だ。写真提供:完実電気
BA型ドライバーの小型軽量さを活かしてステージ用モニターイヤホンには多数搭載されている。リスニング用の高級イヤホンとしても人気が集まっており、代表例のひとつがSHUREの現行機種である「SE535」だ。写真提供:完実電気

【筆者プロフィール】
野村ケンジ(のむら・けんじ)
ヘッドホンやカーオーディオ、ホームオーディオなどの記事をメインに、オーディオ系専門誌やモノ誌、WEB媒体などで活躍するAVライター。なかでもヘッドホン&イヤホンに関しては造詣が深く、実際に年間300モデル以上の製品を10年以上にわたって試聴し続けている。また、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNセレクト」コーナーにアドバイザーとしてレギュラー出演したり、レインボータウンFMの月イチ番組「かをる★のミュージックどん丼792」のコーナー・パーソナリティを務めたりするなど、幅広いメディアに渡って活躍をしている。


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