〔 音とデザイン 第1回 〕

最先端のアートは音楽とともに生まれる
コンセプター坂井直樹さん×アーティスト真鍋大度さん

新しい音色はどこから生まれるか? アフロルーツの音楽「GQOM」に注目

坂井:さて、今度は趣向を変えたノーマルな質問で。最近よく聴いている音楽があればぜひ教えてください。

真鍋:なんでも聴くほうですが、ふだん自分が聴く音楽と、DJでかけたい音楽の2方向があります。自分が聞く曲でいえば、最近はUKガラージっぽいものが好きです。あとは、イギリスのシンガーソングライター、FKA twigsとか。とはいえ、作り手の耳で聴いてしまうことが多く、「あっ、ボーカルにこんなエフェクトかけるんだ」とか、つい気になってしまいます(笑)。

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真鍋氏の作業部屋には、ターンテーブルやDJ用ミキサー、AKAI MPC2000やE-MU SP1200といったサンプラーの名機、Moogシンセサイザーなどが並んでいる。高校生のころから使っている機材もあるという。
真鍋氏の作業部屋には、ターンテーブルやDJ用ミキサー、AKAI MPC2000やE-MU SP1200といったサンプラーの名機、Moogシンセサイザーなどが並んでいる。高校生のころから使っている機材もあるという。

坂井:最近の音楽はいろんな方法で聴けますが、音源はどこで手に入れていますか?

真鍋: オンラインのBandcamp、Bleep、Beatportなどはよく利用します。Bandcampは誰でもリリースができる環境で、アンダーグラウンドのものも多い。僕しか買っていないという曲も、けっこういっぱいあります(笑)。超マニアックですが、無名のクリエーターを見つける楽しさがありますね。 Krakaur君とはBandcampとTwitterで知り合ってELEVENPLAY(※)の公演で楽曲を使わせてもらいました。 無名のクリエイターとのコラボは新鮮で楽しいというだけでなく、長いコラボに繋がるケースもあるので投資的な意味合いも含めて重要視しています。Nosaj Thingとのコラボももう10年以上行ってますが、まだお互いが世の中に知られていない頃にTwitterで知り合ってスタートして共に成長して行ったと言う経緯があります。Ableton Liveという音楽制作のソフトをDJでも使っているので、そのソフトで使えるように高音質なWAVファイルで買うことが多いですね。

LAを拠点に活動するミュージシャン、プロデューサーのNosaj Thingと真鍋氏とのコラボレーション作品「Eclipse/Blue」。
(※) ELEVENPLAY:前出のPerfumeの演出振付家、MIKIKO氏主宰のダンスカンパニー。ライゾマティクスリサーチとのコラボレーションを数多く行っている。

坂井:今気になっているジャンルはある?

真鍋:クラブミュージックのトレンドは追い続けています。絶えずトレンドが変化するクラブミュージックは、連載漫画みたいな楽しさがある。トレンドの元をたどっていくと、そのジャンルが生まれた背景がわかって面白いんですよ。新しいジャンルが生まれるタイミングにも立ち会えますし。ここ10年くらい、そういうことにはまっている感じです。こんなマニアックな話、続けていいんですか?(笑)

坂井:真鍋さんがアンテナを張っているところがわかって面白いよ!

真鍋:それでは、もう少しだけ(笑)。しばらく前から、GQOM(ゴム)という南アフリカダーバン発の、アフロルーツのジャンルが新たに生まれ、ロンドン発で流行っています。Sonarなど新しい音楽を紹介するフェスではDistruction Boyzがメインステージでパフォーマンスするなど既に大ブレイクしてますね。DubstepやFootworkなどのジャンルがそうだった様に、これからもっと一般にも浸透してくると思います。ゴムの作り手たちのネット環境はかなり悪く、彼らは圧縮され、劣化した音を使うんです。機材だけでなく、インフラを含む制作環境がゴムの音楽に反映され、落とした音質だからこそ出せる、暖かみのあるLo-Fi(ローファイ)なサウンドを生み出しています。僕が真似してつくろうとしても、機材がそろった環境なので、ふつうにやれば高音質――Hi-Fi(ハイファイ)になってしまって。つくるとしたらなんらかの工夫が必要なわけですが、いずれにしても新しい音色は必ずしも、最新の技術や環境が整ったところから生まれるわけではないのが面白いですね。

坂井:アナログなカセットテープやレコードもいまだに人気が高いよね。音楽はどうやって聴いているの?

真鍋:ふだんはアップルのAirPods Proで聴くことが多いです。制作中はいくつかのヘッドホンを使い分けています。ずっと同じヘッドホンで作業していると、耳が疲れるので、ちょこちょこ変えるんです。形が違うだけで、楽になるので。

真鍋氏が使っているヘッドホンの一部。スタジオ用モニターヘッドホン、ソニーMDR-CD900STやSENNHEISER HD 599などがある。
真鍋氏が使っているヘッドホンの一部。スタジオ用モニターヘッドホン、ソニーMDR-CD900STやSENNHEISER HD 599などがある。

坂井:僕もけっこう持っているよ。ヘッドホンって、ついつい買ってしまう(笑)。今使っているのは、ソニーのカスタムイヤホンの「Just ear」だね。イヤホンを熟知したエンジニアの方が、耳の型をとって自分の耳にぴったり合う形に仕上げてくれる。それから、僕がふだん聴く音楽や機器に合わせて音質も調整してくれるんだ。

真鍋: 音までカスタマイズできるなんて、最高の贅沢ですよね。

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坂井氏は以前から「Just ear」を愛用。2019年10月に新しく発売された音質更新サービス対応の「XJE-MH1R」も使っている。自分の音の好みに合い、気に入っているとのこと。
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