2024年 4月 19日 (金)

「マサイ族」体験談で「芸能プロ」にうっかり内定

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   知らない人に話しかける、大きな声で呼びかける、電話をする――。そんな誰でも自然にできるあれこれをなぜだかひどく苦痛に感じる内向的な自分が、社会に適応しづらいことには昔から気付いていましたが、就職活動はそれをさらに深く実感させてくれるものでした。

   しかし、私の記念すべき1社目は芸能プロダクション。私のような人間が最も向いていなさそうな会社の面接をなぜ突破できたのか。そのカラクリを、今回は見ていきたいと思います。

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心の「石ころ帽子」を脱ぎ捨てられず、面接で連敗

   知らない人が大勢集まる部屋に入って行き、大きな声で氏名を名乗り、元気に受け答えをする。面接は、私のできないことのオンパレードでした。精一杯ハキハキと答えていたつもりが、去り際に「君、もうちょっと大きな声で話した方がいいよ」などと言われた日には、中身以前に存在として失格だと宣告されている気がして死にたくなったものです。

   面接でよく聞かれたのが、

「映画が好きなら、なぜ女優やクリエイターを目指さなかったのか」

という質問。本音で答えるとするならば、それは心の「石ころ帽子」を脱ぎ捨てられないからでした。

   石ころ帽子とは、あまりメジャーではありませんが、かぶると人から気にされなくなるというドラえもんの道具。透明人間になるのではなく、いるのは見えるが、気にならないというのがポイントです。人が大勢集まる場ではいつもそれをかぶったつもりになり、極力自分の存在が認識されないようにしていました。

   でも、映画作りの現場で石ころになっていては立ち行きません。そのことはわかっていたので、映画に関わる内勤的な仕事はないものかと映画制作会社や映画雑誌の出版社などを受けてみていたのですが、そんな威勢の悪い若者は誰も欲していません。集団の中で自分をアピールするのが苦手で…などとまごまごと抜かしては「どんな仕事にもそれは必要ですよ」と一蹴され、日ごとに落ち込んでゆきました。

牛追い棒の話が「業界人」のツボにはまる

   ところが、本命とは思いながらも半ば諦めかけていた芸能プロダクションの面接で、おかしなことが起きたのです。

   アロハシャツの肩にカーディガンを羽織り、首に金の鎖をじゃらつかせ、髪の毛はリーゼント。第二次の集団面接に登場した社員は、コントに出てくるような「ザ・業界人」といったいでたちのマネージャーでした。私が希望していたのは映画制作部門でしたが、タレントのマネージメント部門との一括採用だったため、マネージャー陣との面接もあったのです。

「じゃあさ、最近いっちゃんムカツいたことを教えてよ。誰からでもいいからさ」

   業界人はいきなり言いました。未だその風貌にも慣れずにいるところにその言葉遣いです。

「ハイ!」

   自分の常識を超えた人種との出会いに何かが壊れてしまったのでしょう、無意識のうちに石ころ帽子を脱ぎ捨て、手を挙げている自分がいました。

「先日旅行したアフリカでの話なんですけど…」

   そう、私は就職活動に入る前、ケニアを旅行していました。基本インドア派ですが、見聞を広げ、帰国後一人静かに内省できるので海外旅行は大好きなのです。

「マサイ族の村でお土産に牛追い棒を買ったんですけど、それが武器だとみなされて、飛行機に乗せてもらえなかったんですよ!」

   業界人のテンションにつられて、なんだかもうビックリマーク付きです。

「説明しても信じてもらえずに怒られて、すごいムカツきました!」

   本当はただムカツいただけでなく、国民性の違いやコミュニケーションの齟齬の問題などいろいろなことを考えさせてくれる出来事でした。しかし業界人には珍しさゆえかそこそこ面白かったようで、さらなるエピソードを求めてきました。私も調子に乗って答えます。

「トイレが三角形の小さな穴だけだったりして大変でした」

   ハハッ!とADのようなカラ笑いをこぼす業界人。これは笑いごとではなく真剣に大変で、膀胱が委縮して4日間で3回しか用を足せず危うく病気になりかけたのですが、私の顔はハキハキ仮面をつけたままもう固まってしまっていました。

   そうして嘘の自分のまま、うっかり内定してしまったのです。

鈴木松子

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鈴木松子
都内の某私立大学を卒業後、20代の7年間に、芸能プロダクション→旅行会社→映画雑誌編集部→新聞系制作会社と転職を繰り返し、今また新しい会社で働き始めたアラサー女。せめてコラムの連載中は、同じ会社に勤め続けられるといいのだが・・・
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