「発達障害と診断を受けた」と社員に告げられました

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   ある人から見れば「仕事ができる」けれども、ある人から見れば「仕事がやりづらい」。そんな風に大きく評価が分かれる社員がいる。自分でも不安になって病院に行ったところ、思わぬ診断を受けた――。

   打ち明けられた人事担当者は「聞きなれない名前なので」と不安を募らせている。

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クライアントとの打ち合わせで自説を大声で主張

――OA商社の人事担当です。企画部門の部長から、ある部下について相談されています。その社員はアイデアマンで光るものを持っているのですが、仕事ができるともできないとも一言では言いにくい不可解な行動が目立つというのです。
   先日、部長とその社員がクライアントとの打ち合わせに行ったときのこと。彼は企画概要を一通り説明し、意見を聴き取る段になったのですが、企画の不備を指摘された途端に、彼は突然大声を上げて意見をさえぎり、その企画の良い点をとうとうと語り始めたのだそうです。
   当然、検討は進むはずもなく、仕事はお流れになってしまいました。驚いた部長が、帰社後に課長に相談すると、社内の仕事の進め方でもいくつか不安なことが起きていることが分かりました。

・特定の種類の仕事や方法にこだわり、他の仕事や方法ではうまく進められない
・チームで仕事をするとき、自分のペースを乱されると混乱して怒り出す
・仕事が細かく納期ギリギリだが、他のメンバーからは余計な仕事が多く見える
   そこで部長は、今回の問題をきっかけに本人と何度か面談を重ねたそうです。すると、信頼関係が築けたせいか、本人から、
「実は昨年、病院でアスペルガー症候群の疑いがあると診断されて、投薬を始めています。今まで自分の抱えてきた問題がそのせいだったのかと思うと、少しすっきりしているところなのです」
という思わぬ告白を受けたのだそうです。
   しかし、私も部長も、それがどのような病気か全く知識がなく、報道で耳にしたことがある程度なので、急に不安が募ってきました。普段は穏やかな社員なのですが、これからどう対処すればよいのでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
まずは偏見や誤解を正すところから始めよう

   アスペルガー症候群という障害は、知的障害が見られないが興味・関心や対人関係に問題が見られる、発達障害の一種です。障害としては比較的新しい概念でもあり、症状が多様で診断が容易ではないので誤解も多いのですが、ご本人は特定の領域で高い能力を持つ場合もあると指摘され、有名人がそうであったと話題になることもあるようです。犯罪などとの関連性については医学的見解が統一されていませんので、周囲の人は偏見を持たずに対応するところから始めましょう。

   症状には個人差が大きく注意すべき点が異なるので、主治医と相談しながら適切な仕事の与え方を検討しましょう。試験や面接などの選抜を受けて入社した社員であれば、一定の能力はあると思いますので、問題が起きそうなパターンを本人にも聞き、それを避けて力を発揮してもらえるような働き方を選ぶことは可能でしょう。社会や職場が、性別や人種、国籍だけでなく、個人の身体や精神の状態の多様性(ダイバシティ)を受け入れて活かしていくことは、これから重要になってくると思います。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
仕事の生産性で客観的に評価・判断しよう

   今回のようなケースでは、本人が病院に行って診断を受けているのが幸いです。障害かどうかは別として、このような問題行動を起こす人はおり、実際には見て見ぬふりをされている場合が多いと思います。しかし放置しておけば、会社の利益や評判、社内の秩序に悪影響を及ぼしかねませんので、適切な対応が必要です。

   病気や障害を持っていれば、確かに仕事が出来ない、出来にくいこともあるでしょう。人事としては、本人の体調には注意を払う必要がありますが、基本的には社内のルールを守ってもらい、公平に対処するというのが取るべきスタンスです。障害が原因でうつなどの精神的病を発症したという診断書とともに、本人から休職したい旨の申し出があった場合には、休職させて治療や休息に専念させる。休職しないのであれば通常の業績評価を行いましょう。その上で、適性などを踏まえて職位を見直したり、問題を起こさずにできる仕事に配置転換するなどを考慮すべきです。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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