「忙しいんですよ!」 どうしても健康診断を受けない社員たちがいます

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   このままでは会社がもたない! 何がなんでも売り上げを確保しなければと仕事を頑張っている最中に、「健康診断を受けてください」とのお知らせが。そんな余裕はないと放っておいたらどうなるのだろうか。ある会社の人事課長は、社員からの反発に「どこまで強制できるか」と頭を悩ましている。


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現場社員が「個人の問題でしょう?」と受診を拒否

――情報システム会社の人事課長です。現在、長時間の残業が日常化しており、時間外労働が月80時間以上の従業員が半数を超えています。現場上がりの私としては「そうでもしなければ仕事をこなせない」という現場の意見も理解しているつもりです。
   しかし人事部としては、会社のリスクを放置しておくわけにもいきません。当社は平均年齢が低いせいか、生活習慣病で通院しているものはいませんが、最近ではメンタルヘルス関係の休職者の割合が他社よりも高くなっているようです。これは慢性的な残業と関わりがあると考えています。
   そこで今年から、前の月に80時間以上の残業をした社員は、産業医が健康診断の結果を見ながら面談を義務付けることにしました。いまのところ、産業医のアドバイスを素直に受け入れているのか、面談が面倒なためかはわかりませんが、長時間の残業をする社員は、少しずつ減ってきているようです。
   ところが一部の社員が、長時間の残業をしているのにもかかわらず、この面談を拒否しており、忙しいことを理由に健康診断すら受けないものもいます。先日、春に受けるべき健康診断をまだ受けていない数人の社員に電話をかけて、受診を促したのですが、

「自分の健康状態は自分で分かってます。受けるまでもありませんから」
「忙しいんですよ! 健康診断の日の仕事は誰がやるんですか?」
「個人の問題でしょう? 会社が強制する権利はないですよ」
と強気です。現場の経験者として、そして人生の先輩として、健康管理の重要性を理解してもらえないことに情けなさを感じています――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「個人の問題」は勘違い。健康診断の受診は「従業員の義務」だ

   労働安全衛生法は「事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行なわなければならない」と規定しており、違反した場合には罰金が科せられます。長時間の残業の末に従業員が病気やケガになってしまったとき、場合によっては労働災害となり、状況を放置していた会社は「安全配慮義務」を怠ったとして、損害賠償を請求されるリスクもあります。残業を減らす方法は会社の事情によりますが、このご時勢に人手を増やすのは困難でしょう。本音と建前を分けずに取り組むつもりなら、トップ自身が残業削減の号令をかけ、会社として仕事の優先順位づけを明言することが効果的だと思います。

   一方、従業員に対しても、罰則はありませんが「労働者は、事業者が行なう健康診断を受けなければならない」という規定があります。業務命令で健康診断を受診させることは法的に問題なく、従わない従業員を懲戒処分としたことを認めた判例もあります。会社はトラブル防止のため、指導の内容と時期を記録しておくべきです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「健康を害するとどのようになるか」をイメージさせる

   若いうちは、自分の健康に対して目が向かないものです。受診の指示を聞かない社員には、社内ルールで強制する一方で、若い人がかかりやすい病気や心身の問題症状を放っておくことのリスクを説明する機会を設け、健康を害した時にどうなるかイメージさせることも考えられます。日常的なストレスや不安、健康問題を相談できる窓口を設けることも、健康への意識の醸成になり、いざという時の受け皿としても効果的です。このあたりは健康保険組合と利害関係が一致するので、健保主催のイベントに乗ることなどを検討するといいと思います。

   現場で仕事に没頭していると、健康診断は仕事とは直接関係ないように思えるもの。「残業が長時間化する構造を会社は理解していない」という不満から、上司や人事部の言うことを聞かないという問題もあるでしょう。仕事の進め方や割振り、人員配置や体制の見直しなど、根本的な問題の解決も必要です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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