解雇してよいか?「遅刻の常習犯」になりつつある新入社員

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   10月を迎え、試用期間が6ヶ月の会社では、新入部員が正式に「社員」として任用されたところだろう。求められるハードルが上がることで、表面化してくるトラブルもありうる。ある会社の課長は、社員になったばかりの新卒が、急に遅刻するようになったと憤慨している。


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遅刻もするのに日の高いうちに退社

――人材派遣会社の経理部の課長です。当社は、正社員を対象にフレックスタイム制を導入しており、10時から15時がコアタイムです。
   先日、今年の新入社員が、試用期間を終えて、正式に部署に配属されてきました。
   彼は、試用期間中は頑張って9時に来ていたのですが、試用期間を終えた途端、始業時間直前に駆け込み出社するようになりました。
   会議の準備などで早く出社する必要があるとき以外は、10時5分前にギリギリで出社しています。ただ、就業規則には違反していないので注意もできず、苦々しく思っていました。
   そのうち、案の定、10時の出社時間も守れなくなる日が出てきて、5分、10分と遅刻をするようになりました。そのたびに口頭で注意すると「すみません」と謝って、駆け込み出社に戻るのですが、しばらくすると遅刻します。
   仕事もミスが多く、重要な仕事を任せられないので、仕事量は多くありません。そのせいもあって、与えられた仕事が早く終わってしまうことがあり、そういうときにはコアタイム直後の15時にひとりで帰ってしまうこともあります。他のメンバーは仕事に追われている最中なので、

「帰る時間を配慮するか、せめて目立たないように帰ってくれ」
と注意するのですが、不満そうな顔で、
「仕事が終われば帰っていいでしょう。なぜコソコソしないといけないんですか?」
と、悪びれるそぶりはありません。本当に協調性がなくて、職場の空気を乱しています。こういう社員は、たとえば遅刻を理由に解雇してしまうことは可能ですか?――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
懲戒解雇はありうるが、管理職の「指導力不足」が目につく

   会社で働く上で社内のルールは守らなければならず、「度重なる遅刻」は懲戒処分の対象になります。さらに、上司の注意を聞き入れず、態度も悪い場合、就業規則の解雇規定で「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たし得ないと認められたとき」などと定めていれば、解雇の対象にもなりえます。

   ただし、ご相談内容を見ると、課長の対応に問題なしとは言えない部分が多々あるように思えます。例えば、最初から「重要な仕事」を任せられないからといって、能力のない社員と決めつけて仕事を与えないのは適切でしょうか。任用したての社員にフレックスタイム制を適用し、労働時間を自己管理させるのは時期尚早ではないでしょうか。自分の仕事が忙しいからと、新入社員任せにして放っておいたり、指導を怠ったりしていては、管理職の指導力不足も問われかねません。仕事の与え方を見直し、早めに出勤しなければならない理由や自分勝手に帰ってはいけない理由を、部下にきちんと説明してみましょう。「そんなの社会人の常識だ!」としか言えないようでは、社員を解雇しても、次の社員で同じことを繰り返さない保証はありません。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「遅刻の原因は何か」考えたり調べたりすることも必要

   「遅刻の常習犯」が問題なのは間違いありませんが、ただ叱っていても解決しない場合もあります。その原因が何か考えてみましょう。身体の健康に問題があるケースもあり、多いのは低血圧や貧血です。これは健康診断で分かることがあります。また、自律神経の働きやバランスが悪くなる「起立性調節障害」や、筋肉の弛緩や脳血管の障害から起きる「睡眠時無呼吸症候群」なども、朝起きることに影響を及ぼすことが知られています。これらの疾患にかかっている場合には、医師から専門的治療を受ける必要があります。

   また、メンタル面の問題も朝起きることに影響を与えます。特に、以前は遅刻をしなかった真面目な社員が、遅刻をしはじめたら要注意です。仕事や個人的なストレスを抱えている可能性があるので、悩みを聞き、場合によっては一時的に仕事の負荷を軽減することも考えられます。職場の体質として、慢性的な長時間労働やストレスの高い環境があるとすれば、根本から手をつけていく必要があるでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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