休職期間満了で会社を辞めたら「請求書」が来た!

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   メンタルヘルス不全の休職者が増え、これに対応する制度を整備している会社も多いだろう。しかし、休職者への説明は忘れられがちのようだ。ある会社では、休職期間満了で退職する部下からのクレームに、現場の上司が戸惑っている。

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社会保険料の支払い「会社が勝手に立て替え」

――IT企業の開発課長です。部下のA君がうつ病で休職していましたが、このたび通算期間が2年を超えるということで、人事部から「自己都合退職とする」旨の連絡を受けました。上司として大変残念です。
   A君からは「休職するときには、通算2年が限度と聞いていなかった」と抗議がありましたが、就業規則に書いてあると伝えたところ、しかたなく諦めたようです。
   ただ、退職金が支払われない上に「請求書」が届いたのには納得できないということでした。
   人事部に確認したところ、A君の休職中の社会保険料を会社が立て替えていたため、これを請求したということでした。
   規定では、すずめの涙ほどの退職金が支払われる予定で、A君もこれをあてにしていたようでしたが、社会保険料を控除するとマイナスになり、不足分を請求したのだそうです。
   これにはA君はたまらず、

「私は会社に立て替えてくれと頼んだ覚えはありません!」
とクレームを入れました。会社が勝手に払っておいて、退職時に引き去るなんてあんまりだと、たいそう憤っています。
   私は管理職の立場ではありますが、できることなら自分の部下だったA君を守りたいと思います。本当に、どうしても支払わなければならないものなのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
会社の「説明不足」の問題は大きいが支払いは必要

   休職期間中は、会社は給与を支払う必要がありませんが、国への社会保険料の支払いは免除されません。したがって、給与から天引きできなくなった社会保険料は、休職者との雇用関係が続いている間、会社が労働者分も立て替えて支払う必要が生じます。立替分は、休職者が職場復帰するときや退職するときに、従業員に請求することになります。(ただし、労働者分も会社が負担する大企業もまれにあるようです。)

   休職者は給与の約6割に当たる傷病手当金を毎月受け取りますので、会社が社会保険料を立て替えてくれていることを忘れがちです。傷病手当金の支給手続きをするときに、これらの事情を説明して、あらかじめ毎月の傷病手当金から社会保険料分を確保しておくように伝えておくべきでしょう。会社がこのことを説明しなかったことは問題ですが、A君には支払いの義務があります。会社は分割払いなどの相談に乗ってあげてもよいのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「休職パッケージ」で社員の不安を取り除く

   うつ病で休職する人に対して、会社のルールを説明するタイミングは非常に難しいです。相手にプレッシャーやショックを与えないように注意すべきですが、最低限のことは初期の段階で簡潔に伝えておくことも必要です。本人が理解できなくても家族に渡せば分かるように、数枚の書類に分かりやすくまとめておきましょう。

   最初に説明すべきことは、仕事を引き継ぐ人が誰かということと、休職中の金銭に関することです。給与や傷病手当金、社会保険料については早めに説明すべきで、これを聞いて不安が取り除かれる社員もいるでしょう。退職については初期の段階では控え、休職期間が数か月経過したところで忘れずに説明します。休職者に知らせるべきことと、会社が行うべきことを時系列でまとめ、「休職パッケージ」というマニュアルにして整理しておくとよいと思います。また、就業規則を含め、社員や管理職には健康な状態のときから関連する情報を開示したり、説明したりすべきです。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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