自らシュートする点取り屋は「加点方式」で育つ

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   よく「日本人はリスクが嫌い」という意見を聞く。実際、大企業での終身雇用を希望する人の割合は過去最高を記録しているし、低金利でも文句ひとつ言わず銀行に資産を預け続けている。新卒時に保守化するのは、新卒至上主義の日本では仕方ない面もあるが、その後の社会人まで保守化しているのを見ると、確かにリスク嫌いというのは国民性なのかなという気もする。

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減点を恐れ無難な解答を選んできた秀才たち

   もっとも、そういった性質をもたらしているものは、文化ではなく教育システムにある。

   日本の教育システムは、典型的な減点方式だ。唯一無二の正答がバーンと存在して、あとは違う答えを減点していくだけ。たとえば、設問に対する選択肢が「ABC」の3つあるとして、常識から考えるとAが一番手堅いと思えば、迷わずAを選んでおくのが合理的だ。

   Bもアリなんじゃないかとか、Cだと当たればリターンでかいんじゃないかとか、そう考える個体も本来はいるはずなのだけど、「落ちこぼれ」とか「不良」とかいうレッテルを張られて教育課程からは排除されていくことになる。後に残るのは、

「Aが一番それっぽいから」

と考える、面白くもなんともない人間だけだ。これを小学生のドリルからセンター試験まで延々と繰り返していく間に、正答にもっとも近い答えを出し続けた人達が東大とか早慶、一橋あたりに集うことになる。

   むしろエリートほど官僚とか○○電力とか、かたい会社に行きたがるのは、染みついた性みたいなものである。要するに、受験というのは、いかにそれっぽい無難な解答を選ぶかという競争なわけだ。

   余談だが、早慶は付属校上がりの中には結構面白い人もいるのだけど、マークシートで入学してきた人は東大以上に“A”な人が多い気がする。東大などは論文がある分、それなりに“B”や“C”っぽい人もいる。

   こういった教育システムは明らかにリスク回避型の人材育成システムなので、官僚養成機関としては悪くないけれど、先進国化した後の知識社会型人材の養成システムとしては、あまりパッとしない。“A”を選ぶことで得られるリターンだけでは、もはや国を維持するだけの富は生み出せないからだ。

手を挙げないと点がつかないしくみに改めよう

   というわけで、大学全入時代も到来したわけだし、従来の大学入試ゴール型教育を抜本的に見直した方が良いのではないか。紙の入学受験なんてやめて、卒論中心に評価を決めるようにするだけで、日本人の気質はものすごく大きく変わると思われる。

   ついでに言うと、僕は個人的に、サッカー日本代表の決定力不足の理由もここにあるとみている。今回はともかく、前回のドイツ大会なんて典型だ。

   間違ったら減点されるシステムの中で生き残ってきた減点方式サバイバー達にとって、リスクはとても恐ろしい。でも、人生では否応なしにそれと向き合わねばならない瞬間は来てしまうわけで、

「急にボールがきたもので…」

なんてことになるのではないか。最初からパスが来るなんて分かってたら、誰も苦労はしないのだが。

   逆に、これが加点方式だったらどうか。正答はあってもなくてもよくて、論理的な思考プロセス等を評価して加点する方式なら、子どもたちはどんどん手を挙げ、人と違う答えを出そうとするだろう。「入ろうが入るまいが俺がシュートしてナンボ」と考える本田みたいな選手も増えるのではないか。

   なんにせよ、社会全体におけるリスク選好型人材の比重を増やさないことには、日本という国の地盤沈下が止まらなそうである。もっとも、日本国というリスク回避型国家が沈没すること自体が、地球全体でみれば一つの成熟なのかもしれないが。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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