2024年 4月 24日 (水)

月に20日のホテル住まい 「出張続きでおかしくなりそう」

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   人員削減が進む一方、残った人には引き継がれた仕事が山積みになっている。出張の多い営業部門でしわ寄せがいくと、上司の目の届かないところで過重な負担が掛かっていることも。ある会社では、音を上げた社員が人事部に駆け込んだ。

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体調は崩すし、妻には浮気を疑われるし

――製造業の人事担当です。先日、営業5年目のA君から、出張が多すぎるので営業部長になんとか言って欲しいという訴えがありました。
   聞くところによると、ここしばらく出張続きで家に帰れず、家族とまともに顔を合わすことすらできていないとのこと。
   調べてみると、確かに月に20日以上が出張で、ビジネスホテルを点々とするパターンが半年も続いています。営業部では他の社員も出張が多いですが、A君が一番多い状態のようです。
   会社は昨年、急速に業績が悪化したため人員削減を進めてきました。A君は、最初は「仕事があるだけありがたい」と思っていたようですが、退職者から引き継ぐ仕事が増えるにつれて、このままでは身体が持たないと感じているそうです。
   また、当社は移動時間を労働時間に含めておらず、前の日に現地に行くときも手当てを出していませんが、A君の奥さんは給料が上がらないのに留守ばかりなのはおかしいと疑い、「どこで浮気しているのよ!」と怒鳴られたのだそうです。もちろん、そんな暇などないようですが。
   彼が営業部長に相談したところ、「人数が少ないんだから何とか頑張ってくれ」としか言われず、業務の調整もしてくれなかったそうです。このままでは状況が改善される見込みはありませんが、A君の

「このままでは病気になって、そのうえ家庭も破綻してしまいます!」
という叫びも理解できますし、営業部長をパワハラで訴えるなどということになっても困ります。どうしたらよいものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
労働基準法には「出張」に関する規制はないが

   出張は、雇用契約に書かれた「就業場所」以外での勤務となるので、あまりに頻繁な場合には雇用契約に違反するのではと疑う人もいるでしょう。しかし労働基準法では出張の回数に制限をしておらず、A君のようなケースでも直ちに違法とならないようです。

   ただ会社には、労働者の心身の健康を損なわないよう注意する「安全配慮義務」があります。今回のケースは過重労働になっているようですので、出張回数を減らして負担を減らすことが課題になります。また、休日の移動に出張手当を支給したり、振替休日を付与してねぎらう会社も少なくありません。そのような配慮をすることで、労働者とのトラブルを回避する効果もあるでしょう。

   なお、上司の指揮・命令が及ばない移動時間は労働時間になりませんが、会社からの指示で重要書類や商品を運搬している場合などは労働時間です。出張の実態を確認し適切な対応をしてください。

臨床心理士・尾崎健一の視点
家庭の事情に配慮するよう営業部長に指導を

   移動時間は業務時間外とみなされることが多いので、知らないうちに労働者に大きな負担がかかっていることがあります。直ちに給与などに反映できなくとも、上司は部下の「移動時間を含めた時間管理」を行う必要があるでしょう。そして、何十時間以上であれば有給休暇の取得を促すなどの手を打つべきです。本当にA君が体調を崩せば、損害賠償を請求されるおそれがあります。

   出張の移動時間は、朝早くや夜遅くの場合が多く、長期間にわたれば心身の疲労が蓄積します。不眠や頭痛、他人と話すことがおっくうになるなどの症状が見られたら、すでに本来の仕事の能率を上げられていません。危険な状態ですので、すぐに業務の軽減を図るべきです。

   また、家族における役割やコミュニケーションの時間が確保できるよう配慮すべきです。せっかく有望な社員も、妻子との関係を良好に維持できていないと仕事の能率にも支障が出ます。仕事とプライベートとのバランスがとれるよう配慮してあげてください。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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