休職者が「プライバシー」を理由に診断書を出さない

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   メンタルヘルス系の病気で休職する人は、いまでこそ珍しくなくなっているが、以前は心療内科に行くことにも強い抵抗感をもつ人が多かった。ある会社では、うつ病を疑われる休職者が、復職に当たって医師の診断書の提出を拒んでいるという。

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顔色は悪いが「出社します」と言って聞かず

――メーカーの総務課長です。事務員のA子さんが、体調がすぐれないということで休みがちになり、ある日「休職したい」と連絡してきました。
   同僚たちに尋ねたところ、数週間前からなんとなく元気がなかったが、特に仕事上のトラブルはなかったとのこと。幸い繁忙期ではなく、人の融通の見通しも立ったので、A子さんの希望どおり2週間ほど休んで様子を見るということで了解しました。しかし、なかなか体調が戻らず、休職期間は結局1か月になってしまいました。
   そこで、A子さんの気分が比較的よい日に出社してもらいましたが、休み前よりも顔色が明らかに悪く、目にも生気がありません。しかし「そろそろ出社します」と主張するので、「もう少し様子を見たら」「無理は禁物だよ」となだめました。
   それでも聞き入れないので、これまで病名を確認していなかったこともあり、「それじゃあ、お医者さんに復職できるという診断書をもらってきて」と言うと、

「なんで、そんなものが必要なのですか! プライバシーの侵害じゃないですか? 本人が大丈夫と言っているのだから、出社させないのはおかしいですよ」
と急に怒り出しました。
   私は、就労しうるかどうかは、診断書を基に会社が判断すると説明すると、A子さんは「休職時には診断書を要求しなかった」「就業規則にも診断書の提出について定めていない」と反論したうえで、
「分かりました。そこまで言いがかりをつけるなら、会社と上司が原因でうつになったと労働基準監督署に訴えます」
と言い捨てて帰ってしまいました。まったく思わぬ形でこじれてしまい困っています。どうしたらいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔のコメント
就業規則に定めていなくても診断書は請求できる

   事業者には、労働者の生命や身体、健康の安全を保護する「安全配慮義務」があります。就業規則に明記していないからといって、会社は何もできないということはありません。今回のケースでは、A子さんが無理して働いたら病状が悪化するおそれは高いでしょう。休ませることは適切な対応かと思います。労働安全衛生法では、使用者が健康状態を把握することを認めていますので、会社はA子さんから得た個人情報を適切に管理すれば、健康状態を判断するために医師の診断書を請求することには問題がないと思われます。

   また、会社と労働者が締結する労働契約は、通常は健康な状態を前提として締結しているのでしょうから、A子さんも復職できることを証明する義務があるでしょう。病気で欠勤しがちであったり、職場にいても仕事ができない状態であれば、厳しい話ですが労働契約の不完全履行ということになります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
業務に起因するかどうかは「指針」に基づき判断

   休職前に同僚に話を聞いたときには問題がなかったようですが、A子さんが「会社と上司が原因でうつ」と言っている以上、念のため関係者や本人に確認した方がよさそうです。仮にA子さんがうつ病であったとしても、それが業務に起因するものであるかどうかは、慎重に判断する必要があります。厚生労働省の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を参照してください。なお、「復職時に診断書の提出を強要された」だけでは労災にはならないでしょう。このような揉め事を防ぐためにも、診断書の提出を含めマニュアル化し、休職者に提示するルールを作っておいたほうがよさそうです。

   今回の件はA子さんが感情的になっているようですが、病気だけでなく会社や上司に対する不満を抱えているのかもしれません。会社の立場を説明しつつ、A子さんの言い分にも耳を傾け、トラブル回避のため感情の安定をはかることが必要です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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