この休職者には「傷病手当金は出せません」

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   上場会社への調査によると、メンタル疾患での休職者は増加から横ばいになったそうだが、依然として多くの人が休職を余儀なくされている。治療に時間がかかる人も少なくないが、休職長期化の影響は思わぬところにも出てくるらしい。

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18か月の受給期間が満了していた

――サービス業の人事部で働く、入社5年目の女性社員です。以前はあまりなかった休職の手続きが、最近では目に見えて多くなりました。書類の作成にも慣れ、だいぶスラスラと手続きを進められるようになりました。
   先日も、Aさんのメンタルヘルス休職の手続きをしたばかりです。彼女は半年前に中途入社してきた30歳事務職の女性。入社直後から休みがちでしたが、最近は出社できない日が続いており、今回うつ病休職の診断書を持ってきました。
   そこでいつものように書類をまとめ、休職中に支給される「傷病手当金」の申請手続書類を健康保険組合あてに送りました。すると今日になって、健保組合から連絡がありました。

「A子さんには休職に伴う傷病手当金は出せません」
   驚いて聞いてみると、A子さんは、前の会社で18か月の受給を受けていたことがわかりました。18か月といえば、傷病手当金の上限。受給期間は所属会社や健保組合が変わってもリセットされないため、今回は支給されないとのことでした。
   健保組合が、そこまで調べているなんて…。ここ数年、健保組合の支出のうちメンタル疾患にかかわる傷病手当金の占める割合が増大しており、赤字削減のために前職の経歴まで調べる必要が出てきたのだそうです。
   健保の審査が厳しくなっていることを知り、言葉もありません。傷病手当金が出ると思っているA子さんに、この事実をどう説明したらいいのか。気の毒で頭を抱えているところです――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
健保の審査はより厳しくなるだろう

   健保組合が以前加入していた組合にまで受給状況を照会することが増えているのは確かです。メンタル疾患による休職者が増加し、傷病手当金の受給で不正も生じている上、健保組合の財政も厳しいことから、審査は今後もより厳しくなるでしょう。審査によって同一の症状と判断された場合は、原則として支給されません。診断名が「うつ病」「気分障害」「自律神経失調症」などと異なっていても、同一種類の疾病とみなすこともあるようです。

   A子さんが制度を知らなかったらショックを受けるかもしれませんが、入社当時から休みがちであったことを考えると、納得されるのではないでしょうか。人事担当者には正しい知識を得ていただき、転職者や再発者に対しては審査が必ず通るとは限らないとあらかじめ伝えておいた方が、トラブルにならないと思います。ただし、審査をするのは健保組合ですから、知識を変に振り回して受付時点で「門前払い」をする必要はまったくありません。

臨床心理士・尾崎健一の視点
入社時の健康チェックは十分だったか

   傷病手当金の趣旨は、病気やケガで働けなくなったときに、健康保険の被保険者とその家族の生活を一定期間保障することです。18か月以上の長期にわたる場合には、一時的な「休職」という概念を外れるので、支給がストップされるわけです。今回のことは、ルールなのでA子さんにきちんと理解してもらい、休職手続きを進めるしかないでしょう。A子さんからは傷病手当が出ないことを理由に、退職に切り替えたいという申し出があるかもしれません。もちろん、会社の規則にしたがって、傷病手当が出ないままでも休職することは可能なはずです。

   世知辛い話ですが、人事部では入社時にA子さんの健康状態を十分確認していたでしょうか。病歴によって不必要な差別をするべきではありませんが、入社後に体調不良で働けなくなるリスクを考えると、職務経歴書に過去の病歴とともに「傷病手当金の受給の有無、期間」などを書いてもらう時代が来るかも知れません。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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