組織が「不正」を起こすとき メルシャン報告書を読む(下)

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   メルシャン不正会計事件の主犯格は、報告書に「甲」と書かれている46歳の元水産飼料事業部長と見られる。事件の背景には何があったのか。「組織不正が起きやすい条件」とともに、日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事の甘粕潔氏に話を聞いた。

会社への甘えや恨みが不正を後押し

個人と組織の両面の問題がある
個人と組織の両面の問題がある

   メルシャンから公開された「社内報告書」には、不正の手口とともに、元水産飼料事業部長が「利益が足りない」と強く圧力をかけたなど、いくつかの発言も引用されている。

   甲氏は1987年に入社し、水産飼料事業部に配属された。かつては事業部の主力商品を開発したこともあったという。長年にわたって事業部長を務めていたが、08年4月、本社の飼料品質管理部長に異動を命ぜられる。

   しかし甲氏は、その後も本社には1カ月に数日しかおもむかず、事業部と同じ建物内にある合弁会社の事務所に居座り、引き続き事業部に強い影響力を及ぼし続けたという。09年には、事業部との合併先の有力候補である取引会社への出向を果たしている。

   甘粕氏は報告書の記述から、不正の「動機」となる要素が読み取れるという。

   それは、彼が事業部の発展に功績を残してきたという「自負」と、手塩にかけた事業部を傍流として軽んじ、異動によって自分をそこから引き離した会社への「仕返し」の感情、自分の影響力を失いたくないという「保身」の欲望だ。

「キリン傘下入りで、事業部の存続が危うくなったプレッシャーもあったかもしれません。しかし手口から見て、不正は部下を守る気持ちからではなく、自分の地位や権力への執着心が引き起こした側面が強いように思えます。これは全くの推測ですが、事業部内のコントロールが麻痺した中で、甲氏に少なからぬカネが流れ込んでいたとしても不思議ではありません」

   また、不正をしてもよいと後押しする「正当化」の要素もあったと甘粕氏は指摘する。

「この事業部はオレが育てた、だから思い通りにしていいというおごりが生じたのでしょうね。これまで持ちつ持たれつでやってきた親密な取引先を助けるには、仕方がないと考えたのでしょう。『仕事はキレイごとではすまない』といった現場特有の甘えの風土や、会社に対する恨みの感情も、不正を後押しする大きな要因になったと思います」

不正を許す組織の問題も見逃せない

   主犯格の甲氏の責任が重いのは当然としても、これだけの大きな不正を見逃してしまった事業部の担当役員や、監査部門の職務怠慢の責任も相当に重いはずだ。

「マイナーな事業部ということで、それまで色々な問題は指摘されつつ、放置される傾向にあったのでしょう。伝統企業にありがちな『事なかれ主義』が蔓延し、取締役や監査部門の人たちも、波風を立てたくないという保身に走ったのではないでしょうか」

   社内規程の整備が不十分で、事業部長決裁で何でもできてしまう状況である上に、地理的に遠隔地にあったことで放任や暴走が進んでしまったようだ。また、メルシャンの生え抜き社員や役員の中に、親会社に対する不健全な対抗意識が芽生えてしまったのかもしれない。

   甘粕氏は、会社で不祥事が起きたときには、主犯格が不正をしようと考えた「動機・プレッシャー」と、実行を後押しする「正当化」、組織がそれを許す「機会」という3要素を分析し、再発防止策を考えるべきと指摘する。

「不祥事を個人の責任としか考えなければ、組織的な問題が放置されます。その意味で、不正の手口や関係者の責任を洗い出して公表したメルシャンの決断は、それなりに評価できると思います。あとは、再発防止策を経営陣が本気で実践し続けられるかどうかにかかっています」

   先日発覚して大問題となっている「検察不正」についても、不正を起こした検事個人のみの責任と捉えていては、再発防止は望めないという。

「何が何でも有罪にしろという『プレッシャー』、検察の正義のためには何でも許されるという『正当化』の風土、捜査・取調べの密室性など不正を起こせる『機会』の要素が、今回の事件の背景にあることは間違いありません。二度と同じことを起こさないためには、検察官同士の相互牽制や、取調べの可視化を含む密室性の打破について検討が必要です。『有罪率至上主義』が検察官に与えるプレッシャーへの配慮も欠かせないでしょう」

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