2019年 11月 20日 (水)

チリ鉱山に「お酒」の差し入れが禁じられた理由

印刷
富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   前回に引き続き、宇宙飛行士のストレス対策について紹介します。チリの作業員たちが閉じ込められていたのは、約70日間。これに対して、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士たちは、ミッションをこなして地球に帰ってくるまでに、宇宙空間で90日から180日間を過ごします。

   もちろん、チリの作業員たちが滞在していた高温で高湿度という生活環境は、宇宙より過酷ではあります。しかし現在検討されている火星ミッションでは、片道半年とも1年とも言われており、とても楽な仕事とはいえません。現在ロシアでは、これを模擬する500日の閉鎖実験が進行中です。

>>ビジネスパーソンのストレス対処術・記事一覧

実験中に殴りあいのケンカ発生

お酒はあくまで「引き金」だが
お酒はあくまで「引き金」だが

   日本の宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)も1999年から2000年にかけて、モスクワで行われた実験に参加したことがありました。初のISS長期滞在に向けて、宇宙飛行士の精神心理的ストレスについて検討し、知見を蓄積するためです。

   ここでは最大240日という、それまでになかった長期間にわたる閉鎖環境滞在の実験を行い、日本からも110日間滞在するグループに1名の被験者を送り込みました。

   ところがこの実験中、大変な問題が起こりました。滞在中の被験者の間で、殴り合いのケンカが発生し、被験者が退出してしまうという騒ぎになったのです。これにより、いくつかの研究がデータ不足により成果が出せなくなってしまいました。

   時刻は大晦日から新年にかけての深夜のこと。ミレニアムの年越しのお祝いに、シャンパンが届けられた席でのことでした。

   ストレスが溜まり、かつ解消する手段が限られている環境では、お酒はストレスを減らすよりも、感情のコントロールを不安定にし、行動の抑制を利かなくする効果が高いようです。ちなみにISSでは、禁酒・禁煙になっています。

   チリ鉱山でトンネルが開通した時、作業員たちは真っ先にタバコと酒を要求しました。私はそのとき、「絶対お酒を入れませんように!」と遠い日本から祈っていたものでした。結局、タバコは届けられたものの、お酒は却下されたそうです。きっと実験の教訓を知っているNASAの担当者が、適切に進言してくれたのでしょう。

筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
今すぐ無料会員に登録して、コメントを書き込もう!
酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)
酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 714
  • おすすめ度 5.0
お知らせ

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中