なんで? 有名私大卒なのに「高卒」と偽って入社していた

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   グローバル化が進み、現業系のブルーカラーの仕事が海外へ流出している。これを受けて、国内に残る工場に就職したい人の競争が高まっているようだ。

   ある会社では、大卒者が学歴を下げて詐称し採用されたことが発覚し、問題になっているという。

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大卒枠がないといわれてウソつき採用

――中堅メーカーの本社人事部です。先日、ある地方工場の工場長が、苦笑いしながら打ち明けてくれました。

「うちの第2加工ラインのA君、本当は有名私立大の卒業生だったらしいよ。高卒だっていってたけど、会社としてどうしようか?」
   確かにA君は、昨春に高卒枠で採用したライン作業員です。履歴書を確認したところ、高校卒業後はフリーターをして過ごしていたと書かれており、学歴詐称といわざるを得ません。
   発覚のきっかけは、職場の人間関係のトラブル。社歴の多い作業員が、年上のA君に何かとからかったり、きつく当たったりしていたそう。A君が抗議したところ「後輩のくせに生意気だ!」などと反発されたことから、つかみ合いのケンカになったようです。
   興奮するA君を、工場長が別室に呼んで話を聞いたところ、
「あいつら、下らないことでいびりやがって…。高卒のくせに」
と悔しがっていたのだとか。詳しく聞くと、おととし就活をしたが希望の就職先に入れなかったので、実家近くのわが社で働こうと思ったが、「採用は高卒枠しかない」と門前払いをされたとのこと。そこで、しかたなくウソの学歴を書いたのだそうです。
   実は工場内には、以前から大卒なのに高卒と偽っている社員が何人かいるという噂もありましたが、これまであえて追及してきませんでした。しかし事実が明らかになったいま、A君への処分を決めるだけでなく、公平性を保つために、噂を確認する必要もあるのかなと感じています。
   その一方で、詐称によって会社が損害を受けたわけではないのに、どうやって処分すべきか考えてしまいます。どうすればよいでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
学歴で枠を設ける合理的な理由があるのか

   会社は求職者の資質や能力、適性などを評価して、採用可否や担当業務を決めますが、その際に学歴や職歴の情報を参考にします。経歴の詐称は会社の判断を誤らせるおそれがあるため、多くの会社で「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」を懲戒解雇事由に挙げています。

   しかし今回のご相談では、ラインの作業を大卒者が行うことで必ずしも業務に支障が出るわけではなく、おそらく学歴の有無によってお互いを蔑んだりひがんだりするなど労務管理上の問題が過去にあったために、慣例的に「高卒枠」を設けていたと思われます。地元出身の高卒者の雇用を担うという政策的な目的もあったかもしれません。

   しかしいずれも、この厳しい競争環境下では合理的な採用基準とはいえず、今後はあくまで業務に必要な能力や適性の観点で公平に採用を行うように見直しを行うべきと思います。ウソをついたことはいけませんが、業務に必要な資格や能力に欠けることを隠すためではないので、懲戒解雇にする合理的な理由があるとは言いにくいでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
偏見の解消を働きかけ実力主義を促進する

   トラブルの原因は学歴詐称ではなく、人の心の問題です。学歴を持ち出して悔しがるAさんにも、社歴で理不尽な上下関係を作るAさんの同僚にも、意味のない偏見があると思います。会社が職場の偏見を解消する働きかけをすることで、職場の働きやすさが向上し、生産性も上がるのではないでしょうか。

   まずは採用時に、学歴による区分けをやめてみてはどうでしょう。その上で、社内登用には年齢や学歴を問わないことを公言し、実際に公平な評価や待遇を行うことで、健全な競争が働くのではないかと思われます。

   語弊があるかもしれませんが、大学進学率が半数を超える状態ですから、大卒だからといって社会のエリート扱いをする時代は終わっているのでしょう。高学歴者の専門性が不可欠な業務があるのは確かですが、それ以外の業務ではあくまでも仕事ぶりで評価することを促進した方が、会社にとっても働く人にとってもメリットが大きいと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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