「重いモノ持てる人を雇って」 若手社員が再雇用者に大不満

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   年金支給開始年齢の引き上げや、生産年齢人口の減少を背景に、定年延長や再雇用が奨励されている。一方で、不況による新卒採用の絞込みも。

   ある会社では、若手や中堅社員から、業務負担のひずみがかかっていると不満が出ているという。

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後輩が入ってこない「新卒増やして」

――製造業の工場で人事を担当しています。当社の定年は60歳ですが、4年前から定年退職者のうち希望者全員を再雇用し、65歳まで嘱託社員として働いてもらっています。
   それ以前から、退職者の技術や経験を踏まえて、工場側から指名して再雇用の打診を行っていましたが、2006年に高年齢者雇用安定法が改正されてからは、会社は現在のように再雇用のしくみを変更したわけです。
   定年退職者は、日本の高度成長を支えてきた人たち。さすがに経験豊富で、その人ならではのスキルを持っていたりします。現役時代ほど給料は支払えませんが、会社としては社員育成や技術承継のため、できるだけ貢献してもらいたい気持ちがあります。
   しかしここ数年、嘱託社員の人数が増え、彼らが担う業務量も増えてきました。それに合わせるように、若手や中堅からは「再雇用もいいけど新卒増やして」と不満の声が少しずつ聞かれるようになっています。

「もう何年も後輩が入ってきていないんです」
「雇うなら、重いモノを持てる人にしてくださいよ」
「僕らもいい年して、ぺーぺー扱いは御免ですって」
   確かに嘱託社員は重労働ができませんし、ほとんど残業もしません。急に体調を崩して休む人もいるのは年齢的にも仕方のないことです。しかし、これらのことが感情的な不満として思わぬ形で溜まってきている感じがするのも確かです。
   再雇用も5年目に入るので、そろそろ全体的なしくみの見直しをしなければならないと思っているのですが、どんな点に注意すればよいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
問題の原因は嘱託社員ではなく会社にある

   人材の採用や育成、配置は、会社の将来見通しを踏まえて判断する必要があります。いま起きている問題の解決策は、新人を雇うだけでなく、外国人を雇ったり工場ごと海外に移したりする選択肢もあるでしょう。そのとき、既存社員や嘱託社員にはどういう役割を担ってもらうのか。正解はひとつではありません。

   そもそも高年齢者雇用安定法は、65歳までの継続雇用のしくみづくりを義務付けてはいますが、全員65歳まで雇えと定めているわけではありません。再雇用は本人の意欲や能力に応じて行われるべきですし、会社が合理的な基準を設けて対象者を柔軟に選定したりすることも認められています。施行5年目にあたり、趣旨に沿った見直しが必要なのでしょう。若手の不満があるということですが、原因は嘱託社員にあるのではなく、会社の採用や配属のマズさから齟齬が起きていると理解すべきです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
マニュアル化と対話を通じてノウハウを引き継ぐ

   嘱託社員の本来の能力を知らずに、若手の不満が溜まるのは不幸なことです。「重いモノ」など提起された問題には対策を打ちつつ、ノウハウ継承を確実に進めましょう。その過程で感情的な行き違いを軽減する効果もあります。

   まずは、「文書に残せるノウハウ」をマニュアル化しましょう。嘱託社員自身にメモを残してもらうのもいいですし、若手が聞き取りをして文書化するのもよいと思います。マニュアル化できない「暗黙知」は、一緒に仕事をしてもらったり、対話を通じて聞き取りをしたりするのが効果的です。といっても、「聞いてこい」とだけ指示するのでは若手も戸惑うでしょう。上司も同席して適切な質問を投げかけて、「工場で昔こんなことが起きたことがあった」「こうやって乗り切った」といったことについて、個人的な体験談を聞きます。これによって若手は、先輩たちの経験の一部を自分のものとして追体験することができるわけです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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