面接で「尊敬する人は誰?」と聞いてはいけないのか

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   不況で「買い手市場」となっている就職戦線。面接では短時間の間にさまざまな質問を投げかけながら、人となりを探る攻防戦が行われている。

   ある会社では、工夫したつもりの問いかけに学生から「答えたくない」と言われて、担当者が困惑している。

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答えの内容で差別するつもりはなかったが

――サービス業の人事です。当社も採用活動に追われ始める時期となりました。毎年たくさんの大学卒業予定の学生と面接し、採用・不採用を決めています。
   採用主任になって3年目経ったものの、「こうすれば優秀な人材を発見できる」「こうすれば意欲を持って働き続けてくれる人を見抜ける」という視点やノウハウがいまひとつ絞りきれず、試行錯誤をしている状況です。
   そこで今年は、部内でアイデアを出し合い「あなたの尊敬する人物は誰ですか?」という分かりやすい質問への答え方で、学生の思考力のレベルを見ていこうと考えました。
   ところが面接を始めたとたん、ある女子学生から、

「その質問には答えたくありません!」
と突っぱねられてビックリ。なんでも、答えの内容によっては「思想信条にかかわること」に該当するので、質問が禁止されているのだとか。
   こちらは答えの内容で差別することは想定しておらず、尊敬する人が即座に浮かぶほど普段から物事を考えているのか、尊敬する点について論理的に説明できるのか、などについて聞こうとしたまでなのですが。
   私としては、つけ焼刃が効かない質問として適切だと思っていたのですが、どうしても避けなければならないものなのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
応募者の適性・能力に関係ない質問はしない方がよい

   厚生労働省の「公正な採用選考について」によると、「本籍・出生地」など本人に責任のない事項などと並んで、「尊敬する人物」など本来自由であるべき思想信条にかかわる事項の把握は、採用面接で質問してはいけないとされています。信教や支持政党がダメなのは感覚的に分かると思いますが、尊敬する人物や購読新聞、愛読書までもが禁止されているとは知らない人も多いかもしれません。

   聞いてはいけない理由は、それが「応募者の適性・能力とは関係ない事柄」であり、そのことで採否を決定するのは公正とはいえないからです。「会社が何を聞こうと勝手だ」とはいきません。そもそも採用面接の意義は、会社が人材に求めるスペックを確認することです。厚生労働省でも採用選考の基本的な考え方として「応募者の適性・能力のみを基準として行うこと」と挙げていますので、欲しい人材像や採用要件を明確にして、それに沿った質問を考えていく必要があるのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
何を確認したいのか明確なら、話題はなんでもいい

   組織で仕事をするうえでの「適性・能力」には、専門性以外の要素もあります。とかく「空気を読む力」の代名詞の様に使われる「コミュニケーション能力」ですが、「他人の考えを正しく受け取り、自分の考えを他人に正しく伝える力」と捉えれば重要なスキルといえ、その有無を確認することは必ずしも誤っていないでしょう。組織のタイプにもよりますが、コミュニケーション能力が低い人と一緒に働くことには強いストレスを伴うからです。

   「尊敬する人」で確認したいことを明確にすると、他の質問にも置き換えられます。例えば、発言の整合性や切り口のユニークさなどを確認したいのなら、話題は「インターネットの匿名性」でも「若者のクルマ離れ」でもいいのです。ただし、話をするうちに、どうしても思想信条にかかわる部分が出てくるものです。その際、考え方の好き嫌いだけで不採用にすることは、採用の公正さを損なうだけでなく、優秀な人材を採るという目的を逸脱したものになりかねないので注意すべきです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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