2024年 4月 25日 (木)

昇進させてあげたいけれど… 「昇給できるカネがない!」

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   右肩上がりの経済成長が続いていたころは、従業員の給料も毎年上がっていたが、不況下ではそうもいかない。給与を支払う原資が年々減っている会社もあるだろう。

   ある会社では、会社の業績が伸びないなかで、中堅社員の頑張りにどう報いるべきか、社長が頭を抱えている。

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ガッカリして社員が辞めてしまうかも

――従業員20人ほどの印刷会社の社長です。来年度の昇給、昇格の事務作業を控え、ユウウツでしかたありません。
   会社の業績は、しばらく順調だったのですが、ここ数年はデフレと業界の構造不況があいまって振るいません。会社の先行きを憂慮して、退職する人も出ています。
   一方で、残っている従業員は、とてもよく働いてくれています。夜遅くまで文句ひとついわずに仕事をしている従業員たちの姿を見ると、少しでも何かで報いたいという気持ちが高まってきます。
   中でも、最近よく頑張っている30歳のA君は、先輩たちと同じペースで行けば、来年度はマネジャーに昇格させたいところです。これまでの例で考えると、マネジャー職は年収が1.2倍になります。
   しかしこの会社にはもう、それだけ払える原資がありませんし、先輩社員たちもここ数年は昇給が止まったままです。
   A君に昇進の辞令を出せば、喜んでモチベーションを上げてくれるでしょう。しかし、もし昇進を見送るとか、昇進してもほとんど昇給はないと知らせたら、彼はどういう反応をするか。
   たぶん、すごくガッカリするでしょうし、もしかすると会社を辞めてしまうかもしれないという不安もあります。彼が抱えている顧客も離反したら、会社は窮地に追い込まれます。こういうとき、どういう判断をすればよいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
給与体系を見直し、お金以外で報いる方法も考える

   心中お察しします。しかし、デフレ不況下では、前例を踏襲した昇給は難しく、業績の悪化に合わせて全体の給与水準を早めに下げておくべきでした。A君に辞められてしまう不安があるようですが、業界の状況から考えて、よりよい雇用条件で自分の抱える顧客とともに同業他社に転職することは相当困難でしょう。まずは不満を少しでも減らす方法を考えるべきです。

   従業員に同情して彼らの満足をいくら追求しても、会社がつぶれてしまっては元も子もありません。月給や賞与を上げれば、社会保険料の会社負担分も増えます。全体の給与体系を見直しつつ、働き盛りのA君に給与を厚めに支払えるよう調整するか、A君の昇給は少し我慢してもらうしかないでしょう。その代わり、例えば「月間MVP賞」などを設けて、会社がどの貢献を高く評価しているかを示すことは効果的です。あわせて報奨金を支払うと、金額は少なくとも「報われた」感は上がるのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
従業員の思惑はそれぞれ異なることも念頭に置く

   何らかのリストラ策が必要な段階なのでしょう。経営の現状と将来見通しを従業員に示しながら、

「給与水準の維持を優先し、高収益事業を残してリストラするのか」
「人と事業は維持するが、大幅な給与体系見直しなどの制度改革を行うのか」

といった会社の方針を、検討の経緯を含めて説明します。従業員20人くらいであれば、個別面談で誠意を伝えることもできます。

   従業員の思惑は年齢や家族の有無、個人的価値観などによって異なります。全員の意見を尊重して多数決で決めようとすると、議論の収拾がつかなくなったり、議決後にしこりが残ったりするおそれがあります。経営者の決定に従えない人は退職もやむなしと割り切る場面も出てくるかもしれません。そのうえで再就職先を斡旋したり、退職一時金を増額したりするのも会社の誠意ではないでしょうか。もし将来収益が改善した際には、一時的に無理をしてもらったことに報いて、残った従業員に必ず配分するようにしましょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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