欧米にもある通勤地獄 「超長距離通勤者」の実態

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   「通勤地獄」という言葉がある。サラリーマンがラッシュに耐えながら何十年にもわたって長時間の通勤時間を過ごすことは、実に厳しいものがある。

   これを日本の特殊事情だと思っている向きも多いようだが、そんなことはない。「仕事は大都市、住むのは郊外」というのは先進国共通の生活スタイルである。仕事をするには大都市に出ていかないとならないが、大都市の家は高価だし住環境にも問題がある。そこで多くのビジネスマンが、通勤に時間をかけることを余儀なくされる。

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毎日往復600キロ近く運転するツワモノも

朝4時半に自宅を出発し7時45分にオフィスに着く
朝4時半に自宅を出発し7時45分にオフィスに着く

   英語に「エクストリーム・コミューター(extreme commuter、超長距離通勤者)」という言葉がある。これは米国勢調査局が正式に命名した用語で、通勤に片道90分以上かけている人々のことを指す。全米で340万人が、この超長距離通勤者の範疇に属しているという。

   2006年、自動車修理のマイダス・マフラー社は「アメリカで最も長い距離を通勤している人」を選ぶコンテストを行った。数千人がエントリーした中で優勝したのは、カリフォルニア州マリポザに住むデビッド・ギヴンズ氏だった。

   彼はサンノゼのシスコ社まで、毎日往復372マイル、599キロもの道のりを運転している。片道およそ300キロ。これは例えば日本海に面した新潟県上越市から都心まで往復するのと同等の距離だ。ギヴンズ氏は毎朝4時半に自宅を出発し、7時45分にオフィスに着く。帰りは午後5時にオフィスを出て、道の混雑具合によるが平均8時半頃に家に戻る。

   アメリカには、ギヴンズ氏と大差ない長時間通勤をしているビジネスマンが数多く存在している。ペンシルバニア州マウント・ポノコから毎朝5時にバスに乗りこみ、2時間揺られてニューヨークのマンハッタンに通う42人の「同志」がいるという。誰かが「卒業」するときは、周りから嫉妬の嵐を受けるそうだ。

   ヨーロッパにもエクストリーム・コミューターがいるが、こちらでは国境を越えて通勤する人が多くなる。ユーロスター(英仏海峡トンネルを通る高速列車)を320キロ以上乗る客の約半数は、フランスからロンドンに通勤する人だそうだ。このためフランスの大統領選では、ロンドンで選挙演説が行われるほど。

   不動産業のアンディ・ヴォーン氏はイギリスのウィンチェスターに住むが、オフィスはオランダのアムステルダムにある。彼は週20時間ほどを通勤に費やしている。月曜朝に出勤し火曜夜に帰宅。水曜に出勤し木曜夜に帰宅。その間にヨーロッパ各都市への出張が入る。

ネットを使って「職住接近」できないか

   大都市の給料と郊外の生活の両方を手にしているかに見える超長距離通勤だが、それによって失うものも多い。まず当然ながら時間。家族との触れ合いの時間が減る。電車やバスに乗るのであれば寝たり仕事をしたりすることも可能だが、自分で車を運転する場合はそれもできない。そして交通費・ガソリン代がかかる。

   さらに気になるのは健康への影響だ。通勤は高血圧、筋骨格障害、敵意攻撃心、遅刻癖、常習的欠勤、認識能力の低下と関連しているという。ハーバード大学のロバート・パトナム教授は、通勤時間を10分かけるごとに社会との関係が10%減ると言っている。

   このように、長距離通勤で失われる社会的コストは大きい。我が国では企業や役所が東京に過度に集中していることが長距離通勤を誘発しており、是正が急務だ。

   アメリカでも以前は大企業の本社はニューヨークに集中していたが、徐々に分散が進み、今では金融など一部の業種が残るのみとなった。東京都心に連なる大企業の本社のなかで、本当にそこになければならないのはいくつあるだろうか。

   ネットなどの通信手段が発達した今こそ、職住接近を実現するチャンスだとはいえないだろうか。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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