もしかして「入社ブルー」? 新人が入社式に出てこられない

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   長期にわたる就職活動を終えて、ようやく就職にこぎつけた卒業生が、入社前に体調を壊すケースがあるようだ。精神的、肉体的な疲労が溜まっているのだろう。

   ある会社では、新入社員から「入社を2~3週間伸ばして欲しい」と連絡があり、担当者が対応に頭を悩ませている。

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「え、あの明るく活動的なA君が?」

――中堅メーカーの総務です。今年の春、2年ぶりに新卒を3人採用しました。一時は業績が悪く、学生からの問い合わせは多かったものの、採用には至りませんでした。
   しかし昨年出した新製品の売れ行きが好調なので、数年後の定年退職者の補充を見越して、選りすぐりで採用を決めました。
   ところが入社式を前にして、入社予定のA君の母親から連絡がありました。体調を崩してしまったので、出社を4月後半まで伸ばして欲しいとのことです。
   詳しく聞くと、実は心療内科で「抑うつ状態」と診断され、医師の勧めで薬を飲みながら自宅で安静にしているとのこと。面接での明るく活動的な印象があったので、「え、あのA君が?」と驚いてしまいました。
   配属先の営業部長に知らせると、

「この仕事は健康じゃなきゃ困るな。とりあえず今の仕事は回ってるし、来年また別の人を寄こしてくれないか?」
とのこと。要するに「配属には及ばない」という意味のようです。
   とりあえず社長に報告して、指示を仰ぎたいと思いますが、担当としてどういうことを踏まえておけばよいものでしょうか。「あの会社は不当な内定取り消しをした」とか悪い評判を立てられるのは、来年以降の採用活動を考えると避けたいのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「内定取り消し」と「試用期間中の解雇」は異なる

   入社時の健康状態が内定時と異なり、就労に耐えられない場合には、内定を取り消すことが認められます。内定通知書に念のため書いている会社も多いのでは。骨折などの負傷で完治のメドが立つ場合には、内定取り消しをせずに入社時期を遅らせる会社がほとんどと思いますが、あくまで例外的な措置です。問題は、客観的に治癒の判断をすることが難しい精神疾患の扱いですが、病状にもよるので「こうすべき」ということは難しいです。会社の判断に当たって、産業医にセカンドオピニオンを得る方法はお勧めできます。

   なお、雇用契約で定めた入社日前であれば「内定取り消し」となりますが、入社日を過ぎている場合には「試用期間中の解雇」となることに注意が必要です。入社して14日を超えている場合には解雇予告の手続きが必要ですが、14日以内であれば即日解雇も可能です。もちろん試用期間中でも恣意的に解雇はできず、客観的に合理的な理由が必要です。

臨床心理士・尾崎健一の視点
結論を急がず、健康上の様子をよく確認する

   学生の就職活動が長期化し、精神的・体力的な負担も大きくなっているようです。就職先が決まってホッとしたり、入社後の生活に対する不安が募ったりすることで、「入社ブルー」になったとしても不思議ではありません。しかし、せっかく能力を見込んで採用したのでしょうし、きちんとしたプロセスも経ています。A君の様子を確認することが前提ですが、一時的な抑うつ状態であれば回復する見込みは十分ありますし、治療後に入社させることも可能でしょう。数か月程度の出遅れであれば取り戻せる範囲内です。社長を通じて営業部長にもそう説明してもらいましょう。もちろん、休職が試用期間終了まで及ぶようであれば、継続雇用するかどうか判断が必要です。

   給与の扱いは、入社前であれば雇用契約の入社日を遅らせ、それまで無給であっても問題ないと思われます。入社後であれば、通常の休業として扱い、有給休暇や欠勤控除など会社の制度に沿って手続きをするのが一般的です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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