2024年 3月 29日 (金)

あえて東京電力「社員」の経営責任を問う

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   東京電力の賠償問題がクローズアップされる中、公的資金の投入は避けられない情勢となりつつある。世論の圧力を受ける形で、労使は従業員の賃下げの協議に入ったという。

   一方で、株主でも何でもない平社員の責任を問うのは誤りだとする同情論も根強い。そもそも東電の従業員は、経営陣と一緒に「賃下げ」という形での経営責任を負うべきなのだろうか。

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「身分」の中で生きるなら、義務も負え

   ごく常識的な判断を言うなら、明らかに従業員の責任は問われるべきではない。彼らは使用者に雇われた労働者にすぎず、責任は経営者と株主が中心となって負うべきだからだ。

   ただし、日本の大手企業の場合は事情が異なる。社長以下、取締役会のほぼ全員が従業員の中から内部昇格し、「正社員」というだけで終身雇用という根拠のない特権を保証され、敵対的買収に対しては「会社は私たち従業員のもの」と言ってのける日本の労組は事実上、会社と一体化した存在である。

   彼らの存在を上手く表現する言葉としては、以前述べたとおり「封建制度における身分制度」がもっとも近い。そこで、以下のように考えてみて欲しい。

   もし、「東電藩」という譜代の大藩が不祥事を起こし、領地に大きな被害が出て、庶民の年貢で救済されねばならなくなった時。「私たち藩士も被害者です」と言われたら、庶民は何と言うだろうか。「城を枕に討死しろ」というのが正直なところだろう。

   ステークホルダーとは、保護されるだけではなく、義務も負う存在であるべきだ。お金を出す側の国民が納得する水準まで処遇を見直した上で、再建に向けて骨身を惜しまず働くべきだろう。それが「東電という身分の中で生きる」ことの意味だ。

   もっとも、これがメーカーのような普通の日本企業なら、ピンチになれば放っておいても自分たちで賃下げするし、場合によってはリストラもする。労組も立場上「従業員に経営責任を転嫁するな」と言いつつも、最後はリストラをきっちり受け入れる。彼ら自身、労使は同じ船の乗員であって、沈んだら困ることくらい先刻承知だからだ。

自浄努力なしに国民負担で救済してよいのか

   そういう意味では、そういう自浄効果を発揮できずに潰れたJALは少々特異な会社だと言えるが、理由ははっきりしている。

「自分たちは特別な身分であり、最後は国が税金で何とかしてくれるはず」

という甘えを持っていたからだ。

   こういう親方日の丸意識が結果的にJALを堕落させ、国民に余分な負担を押しつけさせてしまった。筆者は、東電が同じ轍を踏み、普通の会社なら当然の自浄プロセスを経ることなく、なし崩し的に(被災者をも含めた)国民の負担で救済されることを危惧している。

   さらに言えば、東電の自浄プロセス抜きでの救済は、「あれだけの災害を引き起こしながら、インフラ系企業なら既得権をも含めて、国民負担で救済してもらえるのだ」といった誤ったメッセージを社会に与えてしまうだろう。若者の保守化は一層進み、この国の身分制度は、いっそう強化されてしまうことになる。

   とはいえ、筆者は鬼ではない。社員を鎖につないでコキ使えというつもりはないし、そもそも東電社員の多くにノブレス・オブリージュなんて期待してはいない。彼らの多くは、安定した処遇に惹かれて入社した学歴エリートか、そういうコネを持った家庭の出身者というのが実情だろう。賃下げが嫌だと言うのなら、潔く転職して東電以外で第二の人生をスタートすればいい。

   東電という身分の一員として義務を担うか、それとも今の身分を捨て、野に下るか。自分自身で決めればいいだけの話だ。

   お城の裏門は、いつでも開いている。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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