失政の尻拭いに使われる「65歳定年」と「新卒採用カット」

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   政府が、定年の65歳までの延長を検討している。2001年以降、年金財政への負担を緩和するために、年金の支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられたことへの救済措置である。年金という欠陥制度の尻拭いを民間企業に押し付けるようなもので、実に厚労省らしいやり方だ。

   当たり前の話だが、企業が負担できる人件費は有限なので、高齢者の雇用が増えた分は新卒採用をカットするしかない。というわけで、内定のとれない若者は厚労省を恨むといい。

戦費天引きに利用された終身雇用

年金支給時期と定年に関する主な流れ(筆者作成)
年金支給時期と定年に関する主な流れ(筆者作成)

   ところで、年金制度と定年制度の変遷を見てみると、いろいろ面白いことが見えてくる。表のように、まず最初に年金制度ありきで、後から雇用制度がオマケで作られているのがよく分かる。年金と終身雇用というのは、常にセットで進化してきたわけだ。

   たまに「終身雇用や年功序列は日本の文化」的なことをいう論者がいるが、少なくとも戦前の日本企業には、終身雇用も年功序列も一般的には存在していなかった。すべては高度成長期以降に一般に浸透したカルチャーであり、日本の歴史においては割と最近の流行りものに過ぎない。

   では、その正体とは何なのか。鍵は年金制度が産声をあげた1940年代という時代にある。

   現在の厚生年金は、1944年の厚生年金法が前身だ。大戦末期のドタバタの中、なぜ大日本帝国は柄にもない社会保障など整備しようとしたのか。実は、国民から“年金保険料”と言う名目で、戦費を天引きするためだったのだ。

   あわせて、国家総動員法に基づき、労働者の勝手な転職や賃上げも規制されることとなった(転職防止令、賃金統制令)。大砲を作っている労働者に「軍需産業は危ないからイヤだ」と言って転職されると戦争にならないので、賃金も転職も規制する。そして、身動きできない労働者から、“保険料”と言う名目で天引きする。

   これこそ、現在につながる終身雇用=公的年金制度の源流である。戦費を徴収しやすくするための仕組みが形を変えて、その後の終身雇用制度に変わっただけの話だ。「大日本帝国バンザイ!」という人ならともかく、そうでないならそんなものを有り難がったって意味がない。

さらなる支給年齢の引き上げが待っている

   世の中には「なんだかやらされてる感も負担感も強いなあ」と感じている人が(特にサラリーマンには)多いと思うが、そりゃそうである。戦時官僚が作った国家総動員法の下、看板だけ変えて、今も経済戦争が続いているようなものなのだ。

   違いは、ただ一点。天引きされた保険料が、兵器ではなく年金官僚の尻拭いに使われているという点だけだ。

   2009年度に厚労省の示した試算は、賃金上昇率2.5%、積立金の運用利回り4.1%という絶対に実現不可能な数値に基づいており、今回の年金支給開始年齢引き上げ(とそれに伴う定年延長)は恐らく一時しのぎにしかならないだろう。そう遠くない将来、さらなる支給開始年齢の引き上げが待っているに違いない。

   ただ、仮に年金支給開始が70歳に引き上げられたとして、それは果たして年金と言えるのだろうか?

   少なくとも筆者は、そんな遠い将来の(貰えるかどうかすら怪しい)給付金のために、何十年も天引きされようとは思わない。多くの人が同様の疑問を抱いた時に、はじめて国家総動員体制は終わるのかもしれない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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