2024年 4月 25日 (木)

自社が思う「強み」 本当は「弱み」かもしれない

   よく「当社の強みは○○です」という自信満々な言い方を聞きますが、他人から見ると首を傾げたくなるときもあります。「強み」とは、お客から見た価値のこと。自分で思い込んでいるほど強みではないかもしれません。

   競争相手や環境の変化によっても、強みは変わるし、いつしか思い込みが「弱み」になっていることも。自分たちの強みは本当にいまでも有効なのか、常に疑いを持っているくらいの方がよいでしょう。

「技術志向」の風土が営業の足かせに

自社の技術に精通していることはいいのだが
自社の技術に精通していることはいいのだが

   あるメーカーから相談を受けたときのことです。オーダーメイドの効率化機器を製造・販売しているこの会社は、日本の製造業らしくトップや経営陣が技術畑の出身者で、「技術力の高さ」を売りにしていました。

   営業マンたちも技術に精通している人たちばかりでしたが、なぜか営業成績が思うように伸びず、担当役員から「お客さまへのプレゼンのやり方などの改善指導をして欲しい」と要請を受けました。

   営業マンが自社の製品に詳しくないと悩む会社は多いのですが、この会社はそういう問題はありません。しかし、ヒアリングを進めるうちに「技術志向」の風土が有効な活動の足かせになっていることが見えてきました。

(1) 営業マンたちは、ニーズを想定してお客ごとにカスタマイズした「プレゼン資料」を作成するのに多くの時間を費やしていた
(2) 客先では、プレゼン資料に沿って説明を進め、最後に「何か質問はありませんか?」と尋ねるスタイルだった

   このようなやり方ですから、当然ながら営業マンの訪問件数は極めて少ないわけです。また、実際にシートを使ったプレゼンをしてもらったところ、自社の技術や応用商品をとくとくと一方的に説明するだけで、顧客との対話が乏しい状態でした。

   そこで私たちは、担当役員に対し「営業マンによるプレゼン資料の作成を、原則全廃しましょう」と切り出しました。それに伴い営業のやり方も、汎用ツールを中心とした「顧客との対話」に切り替えるよう提案しました。

「質問中心」に切り替えて業績アップ

   そして何より、営業部門の問題点は「技術者集団にありがちな理論優先の風土」にあるとして、風土改革に切り込む必要性を訴えたのです。 提案を聞いた役員は、

「これが『技術がウリ』の当社に合ったやり方なのか」
「技術営業の連中になじむのか」

と困惑した表情を浮かべました。結局、役員会での白熱した議論の末、社長判断で「半年の試行期間を設けた暫定的な取り組み」として了承されました。

   現場ヒアリングを踏まえ、汎用的な営業ツールがいくつか作られ、

「クライアントから具体的な引き合い(製品購入の打診)が来るまでは、原則として個別のプレゼン資料は作成しない」

ことが徹底されました。

   資料作成に費やされていた時間を訪問に振り向け、徹底的な訪問件数の増強を図りました。営業スタイルはプレゼン資料の説明ではなく、ニーズ引き出しを目的とした質問中心のやり方に変え、そのための訓練を並行して行いました。

   その結果、実施1か月で訪問件数が飛躍的に伸長し、3か月目からは一部担当者の「引き合い」件数が増加し、実績も上がり始めました。当初は戸惑いや不満を表していた営業マンたちも、成果を上げる人が現れ始めると、真似をし始める好循環が起こりました。

「成果が出るならイヤでも従わざるを得ない」

という技術者らしい合理的な思考も働き、試行期間の6か月は無事成功に終わりました。

   ただ、一部に成果の上がらない脱落者がいたことも確かです。彼らは何かと理屈をつけて、最後まで自分たちがやってきたやり方にこだわり、新しいやり方への移行を拒んだのです。担当役員は「営業は理屈を積み重ねるだけでは成果は上がらない」ということをあらためて学んだそうです。

※営業を中心としたお仕事の悩みについて、筆者がお答えします。

大関 暁夫

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大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。執筆にあたり若手ビジネスマンを中心に仕事中の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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