「未回収金を何とかしろ!」 会社が辞めさせてくれない

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   震災の影響で業績が悪化し、資金繰りが苦しくなっている会社もあるだろう。その影響は、さまざまな取引先にも及んでいるようだ。

   ある会社では、震災後に「代金の支払いを待って欲しい」というお客が相次ぎ、若手営業マンが上司から「お前の責任で回収するまで辞めさせない」と叱られているという。

「給与天引き」「損害賠償」ありうるのか

――オフィス機器商社の営業で働いて3年になります。これまで売り上げ目標は辛うじてクリアしてきましたが、担当するお客の代金支払いが滞るケースが増えてきました。

   特に多いのは、震災前に納品したものの、震災後に仕事が減って払えないというお客です。部長からは「何を弱腰になってるんだ、しっかりやれ!」と叱られますが、足しげく通いつめても、

「今月はどうしても払えないんだ。来月にまとめてもらえないかな…」

などと言われてしまえば、引き下がるしかありません。

   そのうち支店長からは「社長に叱られるのは俺なんだぞ」「今期中に回収できなかったら給料から天引き始めるからな」と脅かされるようになりました。

   そうなったら大変だ、正直もうやってられないと思い、部長に「この仕事、私には合ってないと思います。来月で辞めさせてもらいます」と言ったところ、

「何を言ってるんだ。2000万円の未回収金は、お前の担当だろ。あと3年は働いて稼いでもらわないと。もしいま辞めたら、損害賠償してもらうからな!」

と突っぱねられてしまいました。損害賠償なんて、そんなことが可能なのか、不安でなりません。もし可能なら、私には退職の自由が永久になくなってしまいます――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
職務怠慢がなければ責任は上司にもある

   職務怠慢や不正などを理由に懲戒処分を行い、減給とすることはありえますが、未回収金を給与から天引きすることはできません。今回のような場合、果たして「職務怠慢」などと言えるかどうかですが、相談者にすべての責任を押し付けることは難しいでしょう。お客へ機器を販売し納品するときには、上司の了承が必要です(了承なく販売できる場合には会社のシステム不備です)。したがって上司は「このお客にモノを売ってよい」という判断をしたわけですから、未回収が2000万円になるまで放置した責任は上司にもあるわけです。

   上司に重要な情報を隠して販売したとか、ウソをついて販売したとかでなければ、相談者の過失は認められないでしょう。当然、退職時の損害賠償請求も無効です。未回収売掛金の回収方法としては、会社から内容証明郵便を送って督促し、「商品の引き上げ」や「差し押さえ」を行うことが考えられます。販売契約書にそのような対応が円滑にできる定めをしておきましょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
法的には2週間前に申し出れば辞められるが

   相談者が正社員の場合、辞めたい日の2週間以上前に申し出れば、会社を辞めることができます。業務の引継ぎなどを理由に就業規則で「1か月前」「3か月前」などとなっている場合でも、法的には2週間で退職が可能です。ただ、今回のようなケースですぐに辞めてしまうのは、社会人としての今後のキャリアを考えれば得策でない気もします。過剰に責任感を抱く必要はないですが、なんとか回収できる方向で自らできることがあるのではないでしょうか。

   まずは自分のやり方に悪いところがないか、よりよい方法がないか先輩や上司にアドバイスを仰ぐことが考えられるでしょう。場合によっては、同行してもらうことも考えられます。その上で、誰がやっても回収できない事情があると明らかになれば、上司からの理不尽な追及もやむのではないでしょうか。それでも続くようであれば、前述したように退職することを考えればよいと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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