中小企業の「内定取り消し」 本当に悪なのか

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   3.11以降、震災や原発事故の影響で、内定を取り消された学生が469人に上るという調査結果が厚労省から発表された。入社時期の繰り下げは2556人に及ぶという。

   現状、内定取り消しは解雇同様、やむを得ない状況まで追い込まれた上でないと認められないから、相当数が「辞退強要」という形で水面下に潜ってしまっていると思われる(追い込まれてからでは手遅れのケースが多い)。この数字は氷山の一角だろう。

きちんと入社させた東電が素晴らしいのか

   実は厚労省は、リーマンショック後の09年に職業安定法施行規則を改正し、自らの定めたガイドラインに明確に違反する企業については、社名公開も辞さないという強い姿勢を打ち出している。

   「内定を取り消すほど追い込まれている」と知られれば、取引関係に重大な影響が及ぶから、企業にとっては強いプレッシャーと言っていい。だが、実際にはほとんど社名は公表されず、この規制が有効に機能しているとは言い難い。

   フォローしておくと、仕事がなくなってしまった以上、内定が取り消されるのは仕方のないことだ。なまじ規制強化しようものなら、企業は正規雇用の採用枠を減らすことでリスクを減らそうとするだろう。

   筆者がむしろ心配しているのは、内定取り消しにあらわれる歪みの方だ。

   たとえば、東京電力は入社式こそとり辞めたものの、今年もきちんと新人を入社させている。でも、税金で救済された東電が素晴らしくて、福島や三陸で操業停止に追い込まれて泣く泣く内定を取り消した地元企業が悪だと言いきれる人がいるだろうか。

   学生は今も昔も大手志向が根強いが、結果、地方の中小企業は辞退率が慢性的に高い傾向がある。そのため、そういった会社はある程度のバッファを読んで内定を出しておく必要があるが、今年は(震災等により)たまたま辞退が少なかっただけの話だ。そういう会社の採用担当者を「おまえは計画性がない」と言って非難できるだろうか。

みんなで守れる「雇用契約解消ルール」を

   そういう会社の担当者の胸ぐらをつかんで「社名公表するぞ!」と恫喝するのも、学生呼び出して「君じゃあ、どうせついて来れないから辞退したら?」と追い込みかけるのも、一言でいえば弱い者いじめだ。

   仮に何らかの規制強化が行われたら、更なる弱いものいじめが社会のいたるところで行われることになるだろう。

   処方箋は、いつも言っている通り。どっちみち守れっこないんだから「雇用を死守すべし」という看板を外して、代わりに超大手から零細企業まで、みんなで守れる共通の雇用契約解消ルールを明文化するしかない。

   昔、ザ・ブルーハーツの歌に、

「弱いもの達が夕暮れ さらに弱いものをたたく」(『TRAIN-TRAIN』)

という歌詞があったのを、ふと思い出した。今思えば日本社会の本質をよくあらわしていると思う。

   日本社会には、公平とか平等の名のもとに、弱さを認めてこなかった側面があったように思う。弱さに蓋をするのではなく、包括的に包み込むような政策が今こそ必要だろう。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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