「アナタは僕の敵ですね!」名刺を見て言い放ったイケメン経営者

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「へぇ~、債権回収やってるんですか。じゃあ、アナタは僕の敵ですね!」

   とある異業種交流会の会場で、優しそうな笑顔で話しかけてくれたその男性は、私の名刺を見るなり、そう言い放ちました。

   悔しい事になかなかのイケメンで、かなり年上だけど「映像制作会社の代表取締役」という名刺にちょっとトキめいていた私は、いきなりの先制攻撃にあいさつ用の笑顔のまま固まってしまいました。

入社3年目まで自分の仕事を親に言えず

「もっと真面目な仕事に就いた方がいいわよっ!」「……」(イラスト:N本)
「もっと真面目な仕事に就いた方がいいわよっ!」「……」(イラスト:N本)
「僕は昔、消費者金融に借金をして督促された事があるんですけど、あれには本当に腹が立ちましたよ!」

   男性は目の前でいきなり顔を真っ赤にして怒り始め、それからひとしきり文句を言うと、スタスタと去っていきました。残された私は、渡された名刺を握り締めたまま茫然と立ち尽くすしかありませんでした。

(私が督促したわけでも、その会社で働いているわけでもないのに~! ああ、でもこの督促という仕事は、人さまから恨まれてしまう仕事なんだなぁ……)

   少し悲しくなりながら、下を向いて私はトボトボと会場を後にしました。

   世間で言われる「督促」のイメージは決していいものではありません。先日も日曜の朝にやっている戦隊モノの子ども向け番組を見ていたら、絵にかいたような怖いお兄さんがヒロインの所に借金の取り立てに来ていました。

   真夜中に押し掛けたり、大声で怒鳴ったり、胸ぐらをつかんだり、物を蹴飛ばしたり……。

(ちゃんとした会社は、こんなことしないよ!法律に違反するし、一発で業務停止になっちゃうよ!)

   思わずテレビに向かって抗議してしまいました。子どもの頃からこういった番組を見て育つのだから、借金の督促に良いイメージがつくわけがありません。

   実は私も入社3年目になるまで、自分の仕事を両親に告げることができずにいました。カード会社に就職した娘が、お金の取り立てをしているなんて知ったら、どんな顔をされるのだろう……。とても言う気が起こりませんでした。

うれし涙でパソコン画面がにじむときも

   もちろん、督促の仕事が嫌われているのには理由があります。大多数の消費者金融や信販会社は、数年前まで本当にひどい督促をしていました。2006年には行き過ぎた督促が原因で大手会社が業務停止になり、08年にも別の大手に業務改善命令が出されました。

   けれどこうした処分がきっかけとなって、私の会社も含めて金融業界は全体的に方法を改めました。昔はおもに男性社員が事務所で行っていた督促は、今ではより圧迫感を与えにくい女性オペレーターが行っています。

   支払いを強要する言葉を禁止し、「必ず入金して下さいよ」「絶対支払いして下さいね」といった言葉も使いません。それでもやっぱりお客さまの中には、私たちの存在を毛嫌いする人がいます。

「こんな人をわずらわすような仕事、しない方がいいと思いますよ! もっと真面目に働きなさいよっ!!」

   ある日電話をした50代の女性。入金の約束はしていただけたのですが、終わり際にこんな事を言われてしまいました。でも本当に稀にですが、

「電話もらえて助かったよ。わざわざ電話してくれてありがとう」

   そう言って下さるお客様もいらっしゃいます。そういう時はいつもと違って、うれし涙でパソコンの画面がにじみます。

(もう二度と「敵」なんて言わせるもんか!)

   まだまだイメージは悪いけど、誰かがこの仕事をしなければいけないし、私は一人でも多くのお客様に「ありがとう」と言ってもらえるような、そんな督促をしていきたいと思います。

N本(えぬもと)

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債権回収OL・N本(えぬもと)
某金融機関で債権回収部門に所属する20代OL。コールセンターで支払延滞顧客への督促を担当している。入社半年で3億円の回収を達成して頭角を現し、10万件の顧客を担当する精鋭チームに最年少で配属された実績を持つ。他人に強く言えない気弱な性格を逆手にとり、独自の「交渉メソッド」を開発。300人のオペレーターを指導しながら、年間2000億円の債権回収に奮闘している。好きなものは、ビールとスイカ。ブログ「督促(トクソク)OLの回収4コマブログ」。(本コラムは当事者のプライバシー保護のため、一部事実と変えている点があります。)
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