日本人は食うためでなく「ねたみ」のために働く

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   みなさんは、何のために働いているのだろうか。「生活のために決まってるだろ!」とおっしゃるあなた、本当だろうか? 実は今の日本では、働かなくても「食うに困る」という状況は生じにくい。セーフティネットが充実しているからだ。

   例えば、東京区部の夫婦と子ども1人の計3人の標準世帯に支給される「生活保護手当」は、月額およそ23万5千円。現金の支給に加えて、保険医療無償、地域交通機関の利用料無料などの特典もある。万が一のセーフティネットとして悪くないといえるだろう。

働かなくても済む人が働くのはなぜなのか

   しかし、生活保護支給基準以下の所得しかない家計のうち、実際に生活保護を受け取っているのは2割以下だという(厚生労働省の推計による)。つまり、多くの日本人はラクな道を選択せず、できるだけ頑張って働こうという気概を持っているのだ。

   また、稼ぐ必要がまるでなさそうな金持ちなのに、仕事を辞めないといった例も多い。純資産が何億円もあるのに定年までサラリーマンとして勤めあげる、というような人が結構いる。欧米だと十分な貯えができたら、できるだけ早く引退して遊んで暮らすというパターンが多いが、日本ではそういう人は少ない。

   経済学の理論では、「人間は利己的な存在であり、最小の労力で最大の富を得ることを目的にしている」とされる。しかし日本では、そういう原理原則とは別の要素が支配しているようにみえる。

   日本人が働く最大の理由は何だろうか?――それは「ねたみ」である。

   「隣の芝生は青い」という諺がある。自分を他人と比較してしまうのは万国共通のことであるが、日本のように同質性が高い社会では、ねたみが特に大きくなる傾向にある。会社の同期の給料が自分より千円高いとか、隣人が新車を買ったというような、他人から見たらどうでも良いようなことが、その対象になる。

   一方で、イチローが何十億円稼ごうとも、別世界の話なので気にならないし「年収300万円の人は世界的にみればリッチ」などといっても何の慰めにもならない。

   働く必要のない金持ちがサラリーマンを辞めないというのも、自分が社会的に何か意味のあることをしている姿を他人に見せたい、という欲求があるから。「世間体」と言った方がわかりやすいだろうが、これもねたみの裏返しである。

自分も成功したい「嫉妬」との大きな違い

   ねたみの解消が人生の一大目的なので、カネを有効に使おうとか、人生を楽しもうなどという発想が乏しくなる。自分が回りの人たちと比べて遜色ない地位に行くかどうか、ということをいつも考えているので、「ヒトとの比較などしても仕方ない、自分は自分だ」という発想になりにくい。

   このようにねたみで充満している日本社会では、政府やマスコミがそのガス抜きをする役割を果たすことが期待される。

   もしもどこかの若造が大儲けして目立つようだったら懲らしめてやらねばならない。そうすれば大衆は気分がスッキリする。逆に、どこかの業界などが厳しい状況に陥ったら、各種補助金を払って「負け組」が生じないようにする。そのようにして、みんなでねたみを最小にすることが社会的正義となる。

   ちなみに、ねたみは嫉妬(ジェラシー)とはちょっと違う。嫉妬というのは「自分も成功したい」という感情のことだが、ねたみの場合は自分が金持ちになる必要は必ずしもない。成功者の頭を押さえて、自分と同じレベルまで落とせばそれでとりあえず満足だ。

   ねたみが強い人は、生活から満足感を得ることが難しい。自分が成功していけば、その比較の対象もどんどん格上げされていくからだ。年収300万円の人は500万円の人と、500万円の人は1000万円の人と比較する。これは永遠に勝つことのできないゲームである。

   ねたみだって、必ずしも悪いことばかりではない。それが国民の活力となって経済が成長してきた面は否定できない。しかし、ねたみのために幸福感が味わえない、というのでは人生あまりにもつまらない。

   これを克服する特効薬は存在しないが、例えば外国人とかアーティストとか、自分とまったく別の世界の人とつき合う、「日本人の同質性」の外にいる人と交流するといったところから始めてはどうだろうか。

小田切 尚登

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小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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