ネットユーザーよ! もっと「論争」に参加しよう 
中川淳一郎×常見陽平対談(下)

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   中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)と常見陽平氏(人材コンサルタント)の対談最終回。ネットと雇用の分野で過剰なエネルギーを放出して異論を呼んでいる2人だが、若い世代でかみ合った「論争」がなかなか起こらないのが物足りないという。

   また、ITジャーナリズムにおける「欧米礼賛」をやめて、足元にある日本のネットサービスのよさにもっと注目し、適切な評価をしようと呼びかける。

考えを鍛えるためには「まさつ」が必要だ

「ぶつかり合いやつながり合いなくして、考えが鍛えられることがあるのか!」
「ぶつかり合いやつながり合いなくして、考えが鍛えられることがあるのか!」

中川 『ウェブはバカと暇人のもの』を出して以来、ネット上やネット関連の人々が集まる場で多くの批判を浴びてきた。「ネットの一面しか見ていない」とか。それに対してオレは、自分の考えに反対する人や反対のことをする人たちに対話を呼びかけてきた。でも、ほとんどの人は応じなかったね。ネットの一面しか見てないのはどっちだ、という話なんだけど。日本のネット人口はいまや1億人くらいはいるわけで、もはや「世間」。「頭の良い人の世界」だけじゃないんだ。小飼弾さんとは実際に会って和解し、津田大介さんや山本一郎さんとは議論を重ねたりしたけど、何の反応もない人はどう考えてるんだろう。

常見 いまのネット界隈の気味の悪さって、それぞれが名前を出してモノを言っているのに、お互いが平行線で全然交わらないところじゃないかな。ニッチのナンバーワンでもいいんだけど、考えに対立があるにもかかわらず、対話や論争がまるでない。気を使ってスルーしているような、反論されたり批判されたりすることを怖がっているような。

中川 モノを書いたりネットで表に出たりしたら、批判されたり嫌われたり悪口を書かれたりする覚悟は必要だよ。でもいまのネットは、ちょっとでも否定的なことを書かれたら「誹謗中傷だ、許せない」とすぐキレる。一方で書いた方も「いや、素人なんで反論されても。削除します」とかいう言い訳がまかり通る。いったん自分で言ったことだろ、と思うんだけど。批判に耳を傾け、指摘された問題を受け止めて、必要に応じて反論するという土壌がない。これは変えていきたいね。

常見 ソーシャルメディアを商売のタネ、「セルフブランディング」の手段としてしか考えてないからだろうね。異論は、営業妨害としか思ってない。結局、誰もまともな議論なんてできないの。意見の違いと人間的な好き嫌いをごっちゃにしてしまう。あるいは「わかっていない」と決めつけてスルーしてしまう。これでは一生分かりあえない。

中川 まさつを起こさないことが大原則だからね。お互い「いいね!」を押し合う仲間が集う相互承認の場。ほめることしかできない。

常見 でも、まさつを起こさず、他者とのぶつかり合いやつながり合いなくして、考えが鍛えられたり磨かれたりすることなんてあるんだろうか。電通の「鬼十訓」にも「摩擦を恐れるな」という一節があったよな。僕が関わる若年層の雇用・労働の問題では、本田由紀さんや城繁幸さんとは主張や落とし所が違っても、会えば話が通じるし、リスペクトできる人たちだから議論もできる。根っこにある問題意識は一緒だったりするんだよね。

中川 2012年は、本格的に名指しで論争を仕掛けていかなきゃならないな。中川淳一郎と公開対談やりたいネットギーク、ぜひ連絡してくれ。楽しみにしてるぞ!

常見 でも中川ってさ、いちどリアルで会っちゃうと情が移って、全然批判できなくなっちゃうよね。

中川 確かにそうだけどな。うるさいよ!(笑)

米系ウェブサービス礼賛の繰り返しには飽きた

中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)
中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)

中川 論争といえば、日本のメディアやITジャーナリストたちに呼びかけたいのは、「日の丸ITサービスもちゃんと紹介してあげてくださいよ」ということ。「アメリカはこうだ。だから日本はこうなる、こうすべきだ」といった論調を繰り返すのは、もうやめにしてもらいたい。日本って独特過ぎるカルチャーがあるんだ。

常見 われわれにとってよいものを紹介し定着させたい、という取り上げ方じゃないよね。最初だけ持ち上げて、言いっぱなしが多い。ITコンサルタントも「欧米では」と切り出して「だから日本はダメだ」という結論しか出さない。日本のサービスでも会員が多くて、収益化に成功しているところもあるのに。

中川 アメリカの新サービスが出るたびに飛びついて、「○○評論界の第一人者」として賞賛されたり本を出したりするのを見ると、節操なさすぎじゃないかと思う。日本の会社が新サービス出しても、まったく触れないのにね。

常見 最初に飛びついた人が先行者利益を得られるんだから、しょうがないでしょう。ただ、「これが飽きたら、次はこれ」みたいに食い散らかしてるのは、どうだろうね。もし日本のサービスを論じようとすると「勝手にウチのサービス使って儲けようとしてるの?」と物言いがつく難しさがあるとしたら、問題だけど。

中川 日本にだって、地に足のついたソーシャルメディアがあるよ。例えば、三国志好きが集まってワイワイガヤガヤやっている「My三国志」。登場人物の紹介が思い入れたっぷりに書かれていたり、その時代の年表をみんなで作ったり。武将の人気投票や武将占いなんかもあるわけ。こういうのも賞賛して欲しいな。

常見 それなのに、日本のメディアがシリコンバレーとウォールストリートのことばっかり報じてると、ちゃんと足元見ろよ、と残念な気持ちになるわけね。

中川 日本のITギークが教祖の如く扱うアメリカ人だって、おかしなヤツだらけだよ。オレは450人のうち180人が中退するアメリカ中西部の学校に5年近くいたから、ある面の現実を見てきた。体育館に平気でヘロインが落ちてたりしたしね。それを考えたら、日本のいい環境で育ってきた多くのユーザーと開発者が作り出した日本のITサービスって、世界的に見ても本当によくできているし、良質なものが多いと思うよ。

ソーシャルより「親孝行」の方が大切だ

常見陽平氏(人材コンサルタント)
常見陽平氏(人材コンサルタント)

常見 日本の新卒採用を歪めた批判もあるけど、リクナビやマイナビといった就職情報サイトも、ウェブビジネスとしてみると立派なもの。少なくとも00年代までは日本で最も商業的に成功したウェブビジネスのひとつだったよ。ユーザー数やビジネスモデルは類をみないのに、あまり詳しく取り上げられないよね。これからは日本のサービスがアジアで頑張るニュースが出てくるだろうけど、ちゃんと報じてもらいたい。しかし、なぜ日本のITジャーナリストは、アメリカ礼賛が多いのかな。

中川 自分が頭のいい人だと思われたいんじゃないの? ちょっと英語が読めれば簡単に分かることしか書いてないんだけどさ。東京に住んでいる高学歴のIT好きが実名顔出しで「いいね!」するのにも、ちょうどいい話題だ。でも彼らが匿名で本当に考えていることは、そればかりじゃない。オレが編集してるニュースサイト、アフィリエイトの2011年12月の1位って何だと思う?「武田久美子の写真集」が圧勝だよ。人々の素直な気持ちが出ていて、いいよね。

常見 2012年は、「リアル」がキーワードになる年になってほしいな。直接的な人間のつながりが見直されて、いろんな幻想が壊れて、建設的な議論が起こって学べることが多いといいよね。世代闘争も起こりそうだけど、お互いに非難しあうだけじゃなくて、つながりあうところも見つけたい。特定の世代を叩くために、共通の利害で手を結ぶのでは意味がないけどね。自分も何か議論のきっかけを作りたいと思う。

中川 オレは相変わらず自分のことだけを考えて生きていく。日本のロストジェネレーションと言われるけど、「世代として救われるべき」という話とは別に、自分で努力できる部分もある。他人のことを考える前に、自分の人生を少しでもマシにしておけと言いたい。あとはソーシャルメディア上の「友達」と称した単なる知り合いよりも、自分の嫁や子どもを大事にし、親孝行でもしておけ。そっちの方がよっぽどいいぞ。



中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者。博報堂コーポレート・コミュニケーション局で企業の広報活動業務に携わった後、2001年に退社。「日経エンタテインメント」ライター、「テレビブロス」編集者を経て、ネットニュース編集者となる。『ウェブはバカと暇人のもの』『凡人のための仕事プレイ事始め』など著書多数。

常見陽平(つねみ・ようへい) 人材コンサルタント。リクルートでとらばーゆ編集部などに携わった後、大手玩具メーカー採用担当を経て、クオリティ・オブ・ライフに参加。実践女子大学、白百合女子大学、武蔵野美術大学などでキャリア教育科目を担当する。『「キャリアアップ」のバカヤロー』『くたばれ!就職氷河期』など著書多数。最新刊『就職の神さま』。

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