督促の仕事を始めたばかりの新人の頃、いつものようにかかってきた電話を取ると、相手は名前も名乗らずこう言い放ちました。「お前の会社に爆弾を送った…」(ばっ、爆弾!?ええと…、ここに?あと、なんで?理由は!?)脳内で色々なツッコミの言葉が飛び交いましたが、どう反応してよいのかわからず、とっさに出てきた言葉が、「かっ…、かしこまりました!」了解してどうするんだ!と、今でも思い出すと赤面してしまう出来事です。爆破予告の対応にはもう慣れたうわー、立派なキャベツ!これ、みんなで分けていいのかな…(イラスト:N本)コールセンターでは、お客さまからこういったお申し出(?)をいただくのは珍しいことではありません。今でもたまに爆破予告を受けますが、最近ではなんとか人並みに、「お客さま、なにかお気に触る事がありましたか?ぜひご意見をお聞かせ下さい」と対応できるようになってきました。爆破予告をするお客さまというのは、コールセンターや会社の対応に不満のあるお客さまなのです。幸い、私は実際に爆弾や凶器の類を送られて受け取る――といった場に居合わせた経験はありませんが、コールセンターにはたまに不思議な贈り物が送られてくることがあるのです。「先輩、なんですかこれ?」。ある日会社に行くと、隣の机の上に大きな段ボール箱が乗っていました。「ああそれ、お客さまから送られてきたんだよ」ふたを開けてみると、そこにあったのは、みずみずしくて大きなキャベツ。段ボールに大量に詰め込まれた上には、一通の手紙が添えられていました。「○○県に住んでいる、会員番号×××の××と申します。この度はお支払いが遅れて申し訳ございません、お金がなくお支払いが出来ないので、代金の代わりにうちで取れた野菜をお送りさせていただきます――」要約をすると手紙はこんな内容でした。支払いを延滞している農家のお客さまが、野菜を直接送ってきて下さったのです。「えっ…どうするんですかコレ?」。スーパーで売っていたキャベツの値段を思い出すと、結構な金額になるはず。みんなで分けて食べるのかしら、と思いましたが、先輩は困った顔で答えました。「もちろん受け取れないから、送り返すしかないわね」高価な海苔でも支払いの代わりにならない確かに、どんなに貴重なもの、価値のあるものでも、私たちは換金する術を持たないので、お送りいただいたものはすべて返送するしかありません。高級そうな海苔やお茶、昆布といったものを送っていただいた経験があります。商品として加工されているモノもあれば、むき身のままのモノもありましたが、どれも「支払えなくて申し訳ない」という気持ちが伝わって来ました。ただ、こちらとしては送り返す送料の分、経費的にマイナスなんですが…。お客さまからモノではなくお手紙をいただくこともあります。ハガキ一枚に「○月×日に払います」とだけ書いてあるものから、「何これ、本!?」と思うくらいに、延々とワープロで綴ったお手紙をいただいたこともあります。どうして自分が支払えなくなったのか、世の中の無情、政治の責任について、などなど…。「はい、これ、内容全部パソコンに記録しといてね」。バサリ、と目の前に大小様々な手紙の束が置かれました。郵送物は基本的に中身を全て確認し、パソコンに記録を残さなければいけないのです。それから、お手紙だけでは支払いを猶予することはできないので、確認のためにすべてお電話をかけなければなりません。キャベツのお客さまにも、お電話で事情を話して再度督促したのですが、やはり心が痛みました。贈り物をいただくたびに、支払いが遅れて申し訳ないというお心はありがたいと思いつつ、「モノでは困ります」と説明せざるをえないのです。ぜひ皆さんにもご理解いただきたいと思います。N本(えぬもと)>>債権回収OLのトホホな日常・記事一覧
記事に戻る