映画「マネーボール」に見るコンサルティングの本質

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   2011年のある日、狭い機内のシートの中で、僕は身体を丸めて小さな画面に見入っていった。映画「マネーボール」。原作が上梓されたのは、2003年のことだ。僕は書店に平積みされた本を買い、瞬く間に読了してしまった。

   それが8年の月日を経て、映画化された。映画になるのが遅れたのは、原作がノン・フィンクションであり、経営書であったためだろうか。

データを基に「出塁率」の高い選手を評価

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   映画では少し分かりにくくなってしまっているが、この書は、ベースボールの本質を捉えなおすことが成功の道であったことが強調されている。ブラッド・ピット主演のこの映画には、コンサルティングの本質が隠されているのだ。

   僕らは野球選手を評価するときに、打率やホームラン数などを指標にする。しかし「マネーボール」では、そう考えない。

「ベースボールとは、27個のアウトを取られるまでは終わらないスポーツである」

と捉えなおす。だから、打率やホームラン数よりも、出塁率が大切だ。出塁する限りにおいて、ヒットもフォアボールも等値であるとみなすことになる。

   選手の年棒は、打率やホームラン数を重視して決まることが一般的だ。打率が低くホームランも少ない選手の年棒は低くなるので、年棒は低くても高い出塁率でチームの勝利に貢献できる選手が存在することになる。

   そうした事実関係を統計から気づき、ロー・コストでハイ・パフォーミングな選手を獲得して、オークランド・アスレチックスという弱小チームを立て直していった実話に基づく物語である。

   実は、コンサルティングも同じ原理だ。どうしてクライアントの本業に外部のコンサルタントがアドバイスできるのかというと、クライアントは往々にして永年の経験に頼った思い込みがあるからだ。

本業の「間違った思い込み」を見つけ出す醍醐味

   1990年代のアサヒビールの台頭には、住友銀行から送り込まれた当時の社長によって、あるコンサルティング会社のレポートが発掘され見直された経緯があったことは、公知のこととなった。

   80年代は、キリンビールが圧倒的に高いシェアを持っていた。営業力が勝負を決めると考えられていた。ところが、そのレポートには、品質とりわけ鮮度が大切であることが、消費者目線で語られていた。

   営業力の勝負から品質の勝負へと、パラダイム転換を起こした。それが、今日のアサヒビールの躍進につながる。

   映画「マネーボール」の中でも、老練なスカウトマンたちが、主人公が統計にもとづいて選手選びをするさまを見下すシーンが出てくる。このような場面は、きっと変革の現場にはつきものなのだろうと、考えこんでしまった。

   いろいろな分野のコンサルティングがあるから、クライアントの思い込みを解くことだけがコンサルティングだとは思わない。けれでも、クライアントの本業に切り込んで間違った思い込みを見つけ出し、それによって会社の方向性を大きく変えていくことこそ、コンサルティングの醍醐味に他ならない。

   その興奮を知っているからこそ、僕はもう四半世紀もコンサルティングを続けているのだと思う。


大庫 直樹

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
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