2024年 4月 23日 (火)

「原発」と「国債」「日本企業」は、こうつながっている

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   電力の原発停止問題は、前回説明した「ピーク・デマンド」の引き下げだけに限定されず、日本経済に抜本的な影響をおぼす可能性がある。

   電力問題は、国家の信用を揺るがせかねない。国家の信用力低下は、金融市場に大きな混乱を与えるかもしれない。金融市場の混乱は、経済に必ずマイナスとなる。だから、もっと広い視野の中で議論するべき問題なのだ。

「経常収支、赤字転落」の意味合い

(カット:長友啓典)
(カット:長友啓典)

   2012年3月8日に財務省から発表された経常収支の赤字転落は、金融業界に大きな衝撃を与えた。国債の価格を安定させているとされる理由のひとつが、ついに失われたからだ。

   GDPの規模を超える借金を国が抱えても、国債の価格が暴落しない理由は3つある。ひとつは、日本の消費税率はまだまだ低いからだ。欧州の付加価値税は20~25%程度である。だから、まだまだ税金を徴収できる余地が大きい。それを考えると、国債の償還もなんとかなる。きっと償還されるはずだから国債の価格は安定している、という論理である。

   ふたつ目は、経常収支が黒字だからだ。経常収支というのは、ひらたく言ってしまえば、日本全体を大きな財布だとしたときに、出ていくおカネと入ってくるおカネのどちらが多いかということである。経常収支が黒字なら、日本という国に入ってくるおカネの方が多いのだから、そのおカネで国債を返済することができるでしょう、という論理である。経常収支で出入りの大きな部分は、貿易収支となる。

   この2つ目の理由が、今回失われた。その背景には、原発を止めて火力発電所などを動かすと、ガス、石炭、石油などの化石燃料を大量に必要とすることがある。天然資源に恵まれない日本は、化石燃料の調達はもっぱら輸入に頼っている。燃料費としてみれば、1kwhの電気をつくるために必要な核燃料よりも化石燃料は圧倒的に高価だ。結果として経常収支は赤字に転落することになる。

   よく、原発の発電費用は高いという指摘がある。それは、設備の減価償却費用や解体費用、使用済み核燃料の廃棄費用などを含めた場合である。しかし経常収支に影響を与えるのは、燃料費だけである。設備は埋没費用であるし、解体費用、廃棄費用が実際に掛かるのは、ずっと先のことだからである。

   経常赤字が果たしてどれくらい続くのか分からない。でも、近い将来、国債の価格は不安定になり暴落する可能性がより高まったように思う。

「今までとは違うから大丈夫」が通用するのか

   国債価格が下がるということは、金利が上がるということである。金利が上がると、今まで世界一の低利でおカネを借りながらも、低収益に甘んじていた企業の経営が先ゆかなくなる可能性が高くなる。日本にはこうした企業は実に多い。こうして、日本全体の景気が加速度的に悪くなることも考えられる。

   すでに財政、金融関係者からは、国債の暴落の可能性についての指摘は多い。原発停止の影響は、もともと危惧されていた国債暴落をただ早めるだけなのかもしれない。またひとつ不安材料が加わった。

   国債価格の暴落について、800年間にわたり実証研究した書籍に「国家は破綻する」(カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ著、日経BP社)がある。その原題は「This Time is Different」である。直訳すれば「今度は違う」ということである。

   つまり、財政状況が悪化しながらも、今度は今までとは違うから大丈夫ということである。しかし本書は、そうした論理の陳腐さを実証研究によって暴いている。シニカルな原題の方が、邦題よりもずっとシャレていると思う。

   事実、身近で「This Time is Different」になんてなったことはない。北海道拓殖銀行が破綻していくときも、日本の大手銀行がつぶれるはずがないと、ぎりぎりになるまで思っていた業界関係者は多い。米国のサブプライム住宅ローンが破綻していくときも、高度に発達した金融工学が安全性を高めていると信じていた人も多い。

   今のところ、国債は金利1%前後を安定して推移している。価格が暴落する兆候はまだ見られない。だからといって、本当に「This Time is Different」ということになるのだろうか。(大庫直樹)

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
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