2024年 4月 27日 (土)

「辞める辞める」と言いながら、なかなか辞めない社員がいます

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   会社でグチばかりこぼす人がいる。ストレスのはけ口になっているのだろうが、聞かされる周囲はたまったものではない。腹が立つこともあるが、グチの内容によっては反応に困るものもある。

   ある会社では、上司が仕事に対する注文をつけても「もうすぐ辞めるから」と聞かず、それでいて会社には毎日来るという不可解な行動をとる社員に手を焼いている。

「おまえなんか辞めちまえ!」とも言えず

――印刷会社の営業課長です。私の部下に30歳を過ぎて、まるでやる気のない男がいます。

   担当するお客への巡回は、ひととおりやっているようですが、営業成績はいつも最下位レベル。「もう中堅なんだからさ、新規提案もやってくれよ」と言っているのですが、仕事に対する姿勢は変わりません。

   個人面談の場でおだてなだめすかしたり、成績が上がったら報奨金を出すとハッパをかけても、「いや、僕もうすぐ辞めますから」と言って、やる気を見せません。何かと頑張らない理由づけをしているようにも見えます。

   ときどき納期遅れやミスを起こすこともあり、注意し改善を促しても「すみません、もう辞めますし」。なぜ辞めるのかと聞いても、

「いや、もうなんとなく」
「仕事が合っていないから…」

という程度の答えしか返ってきません。かといって、実際に辞めるわけでもなく、という状態が1年も続いています。

   ときどき「おい、おまえなんか辞めちまえ!」と怒鳴りたくなりますが、パワハラとか退職強要とか言われることを恐れています。こんな社員には、どういう対処をしたらいいんでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
次に言ったら「書面にしてくれないか」と返す

   職務怠慢を上司が再三注意したのにもかかわらず、部下が反省の姿勢を示さずに改善の様子を見せない場合、会社は部下を懲戒処分とすることができます。ただし、職務怠慢を指摘するからには、きちんとした根拠が必要です。部下への要求を目標数値に落とし込み、それが達成できない場合に、明らかに職務怠慢が原因と指摘しなければなりません。漠然と「新規提案もやってくれよ」と言う程度では弱い気がします。

   なお、退職の意思表明は口頭でも成立しますので、使用者の承諾があれば合意による退職が成立します。ただし、労働者の意思表明が真意に基づく明確なものであることの確認が必要です。後になって「あれは本意ではなかった」などと言われると面倒な展開になりかねないので、実務的には書面による確認(退職届)が必要です。次に「辞める」と言い出したら、「君の気持ちはよく分かった。ではそれを書面にしてくれないか」とその場で書かせてもいいかもしれません。このとき「辞めると言っただろ!早く書けよ!」と脅すと退職強要になるので要注意です。もし書かない場合、「辞めないのなら指示に従いなさい。従わなければ処分する」と毅然と言っていいでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「辞める」は単なるグチかも。何が不満か聞き取る

   基本的には野崎さんの指摘のとおりですが、あまりにも軽々しく言う場合には「辞める」という発言を言葉通りに取り合わず、単なるグチと捉えるアプローチもあるかと思います。まずは「グチを言うのはいいが、仕事はちゃんとやってくれ。同僚たちへの悪影響も考えろ」と言い渡すことです。そのうえで、面談の際には「あなたは何が不満なのか?」と単刀直入に聞き、グチを言う理由を探ってみてはどうでしょうか。仕事のやり方が分からないのか、それとも評価の仕方が納得できないのか。ハッパをかけるだけでなく、本音を聞き取り改善の手を打てば少しは姿勢が変わるかもしれません。手間は掛かりますが、退職勧奨や解雇の前にはいちどやっておいてもいいと思います。

   なお、もしも無気力がうつ病によるものだった場合、それを知らずに退職勧奨や解雇をすると、後になってトラブルになることもあります。以前は元気だったのに元気がなくなったなどの「変化があったか」に注目し、様子がおかしい場合には、念のため医師の診断を受けるよう勧めた方がよいと思います。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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