「日本は中小企業に支えられている」という思い込みからの転換

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   この1カ月ほど、電力問題について日本の経済戦略の観点から続けて書いた。とはいえ、日本経済に関わる重要な問題は電力だけではない。

   日本経済の原動力は、これまで中小企業の力と言われてきた。果たしてそれは、いまでも通用することなのか。日本経済の活性化のために、中小企業主体の経済構造を転換すべきか否か、転換するのならどう転換すべきか、議論を尽くさなければいけないように思う。

2000年代以降の低迷は中小企業が原因では

1社当たり営業利益の変遷(指数100=1981年)(出典:法人企業統計)
1社当たり営業利益の変遷(指数100=1981年)(出典:法人企業統計)

   1981年から約30年にわたって、日本企業の業績がどのように推移してきたかを見ていくと、中小企業問題の根深さに気づくことになる。

   図は、企業1社あたりの営業利益を時系列に追いかけたものである。1982年を100とする指数表示で、折れ線は資本金規模に応じて描かれている。この図で一目瞭然なのは、大・中堅企業(資本金5,000万円以上)と中小・零細企業(資本金5,000万円未満)で、2000年以降のパフォーマンスが大きく異なることである。

   80年代後半はバブルに沸き、90年代は「失われた10年」といわれていることが、数字の上でも明確である。しかし、2000年代に入ると大・中堅企業の収益水準は、少なくともリーマン・ショックの直前までに、ほぼ80年代前半の収益水準に匹敵するほどまでに回復する。

   一方で中小・零細企業は、2000年代に入ってからも低迷を続ける。資本金が1,000万円から5,000万円の企業群は、80年代の収益水準の3分の1から4分の1ほどの水準から回復していない。1,000万円未満になってしまうと、赤字になったり黒字になったりを繰り返す。収益が安定していない。

   これらの数字は、財務省の「法人企業統計」からデータをとり分析している。毎年毎年サンプルとなる企業が変わるため、100%正しいトレンドを追っているわけではないが、大まかな動向はそれでもつかめるはずである。

   大・中堅企業からの厳しい要求が、中小・零細企業の収益を圧迫していると言えるのかもしれない。もちろん、そうしたケースがあることは否定できない。しかし、みんながみんな、そうであるわけはない。中小・零細企業の問題を真摯に受け止めるときが来たのではないだろうか。

   日本の経済産業の主力である中小・零細企業が長期低迷していることこそ、日本経済が回復できない原因のひとつであるように見える。中小・零細企業の収益性がどうしても回復できないのなら、大・中堅企業を主力とする経済構造へ導くことも経済戦略となりうる。

センチメンタリズムで、競争ルールの変化は止められない

   中小企業問題は、ある種の感情的な問題に陥りやすい。中小企業は弱者であり、弱者が精一杯がんばっているのに、切り捨てるようなことはいけない、と。

   僕も個人的には、そのような心情は理解できる。僕の両親は、父が80歳を迎えるまで東京の下町で洋品店を営んでいたからだ。僕が子どもだった昭和40年代までは随分と繁盛していて、毎年のように店舗を改装できていた。

   でも、明らかに人々の趣向は変わっていった。近くに大規模スーパーができると、そちらに流れていった。今では、そこそこのショッピングモールが、車で10分くらいのところにできた。パパママ・ストアを経営していた両親ですら、商店街との付き合いは今でも大事にしているが、私の子どもたちを連れてショッピングモールに遊びにいくようになった。

   アパレル、雑貨、飲食、映画館、いろいろなテナントが入っているから、飽きない。面白くて楽しい。時間が経つのを忘れる。父の店のまわりは、飲食街に変わっていった。

   個人としての選好は、明らかに大資本によるサービスを求めている。これは商業の世界のことだが、製造業でも工場設備の大型化、IT導入、海外企業との協業など、大資本が有利な競争ルールにどんどん変わっている。

   競争ルールの変化を、センチメンタリズムが止めることはできない。これからの時代、中小・零細企業が高い収益性を誇るのは、一層難しくなりつつある。もちろん、世界一の匠の技を有して競争できる市場がないわけではない。ただ、あるのだけれども、経済全体からみると小さな分野に留まっている。

   「Always 3丁目の夕日」がヒットを続けるのも、よく分かる気がする。あそこに描かれる零細企業の人々が懸命に前に進んでいく姿が心を打つからだ。

   しかし、2010年代に入った今、感傷的な視点で経済戦略を議論してはいけないように思える。産業構造を少しずつ中小・零細企業主体から、大・中堅企業主体に移行させることを、経済戦略として検討していかなければならないように思える。(大庫直樹)

大庫直樹(おおご・なおき)
1962年東京生まれ。東京大学理学部数学科卒。20年間にわたりマッキンゼーでコンサルティングに従事。東京、ストックホルム、ソウル・オフィスに所属。99年からはパートナーとして銀行からノンバンクまであらゆる業態の金融機関の経営改革に携わる。2005年GEに転じ、08年独立しルートエフを設立、代表取締役(現職)。09~11年大阪府特別参与、11年よりプライスウォーターハウスクーパース常務執行役員(現職)。著書に『あしたのための「銀行学」入門』 (PHPビジネス新書)、『あした ゆたかに なあれ―パパの休日の経済学』(世界文化社)など。
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