2024年 4月 20日 (土)

会社のカネを横領して「ストレス発散」する人もいる

   横領は犯罪である。そんなことは誰でも知っている。それなのになぜ、人は横領をしてしまうのか?

「答えは簡単。カネに困っているから」

と言う人も多いだろう。確かに、カネに困った人がみんな横領するわけではないが、借金の返済に困ってやむにやまれず、というのが横領の典型的な理由ではある。

   その一方で、特にカネに困ってもいないのに横領に手を染めてしまう人たちもいる。

現金を「使わずに持っていた」女性臨時職員

カネに困っていない人でも横領に手を染める
カネに困っていない人でも横領に手を染める

   今年(2012年)の1月、元郵便局員の男性(45歳)が逮捕された。顧客から集金した保険料などの業務上横領容疑だ。調べに対して男性は、

「上司から仕事面でいつも厳しく叱責されるのが嫌で、上司に迷惑をかけてやろうと思ってやった」

と容疑を認めた。着服金は、飲食代や風俗代に使ったとのことである。

   「イヤな上司を困らせてやりたい!」と思ったことのある人でも、それが横領につながるのか、と驚くのではないか。しかし、この手の事件は珍しくない。ネットで検索しただけでも「ストレス解消」を理由とした事件がいくつも見つかった。

・某銀行員(男性、47歳)が、顧客をだまして投資信託などの解約金を着服。「家庭の問題や仕事のストレスを解消しようとしてやった。飲食費やパチンコ代に使った」
・某市立高校の事務長(男性、54歳)が、部活動の助成金を着服。「ストレス解消のためにやった。全額を競馬に使った」
・某市の臨時職員(30代、女性)が、徴収した水道料金を横領。「ストレス解消のためにやった。横領した現金は使わずに持っている」

   銀行員も事務長も、借金の返済や生活必需品に使ったわけではない。臨時職員の女性に至っては、着服金を使っていないのだから「カネに困ってやった」わけではないことは明らかだ。

   横領を防止するためには、このように「仕事のストレスから横領に手を染める」パターンもあり得ることを認識する必要がある。特に上司などとの人間関係から生じるストレスが原因になりやすい。

「他人とシェアできない問題」を抱えていないか

   アメリカの犯罪学者、クレッシーは、多数の横領犯からの聴き取りをもとに、「人はなぜ悪いと知りながら横領をするのか」ということを徹底して研究した。その結果、わかったことは、横領犯の多くは「他人には言えない(他人とシェアできない)問題」を抱えていたことである。

   例えば、多額の借金を抱えていても、裕福な親とシェアできれば「借金で困ってるんだ。助けてくれないか」と泣きついて、横領をせずにすむ。

   しかし借金の原因が、家族に内緒で始めたギャンブルだったらどうか。不倫が原因だったらどうか。家族に知れたら恥ずかしい、離婚の危機になると考えてシェア(打ち明け、泣きつき)できなくなり、最後には手段を選ばなくなるリスクが高まる。

   「上司が自分を目の敵にしている」「上司に仕返ししたい」という不満も周囲には打ち明けにくく、心の中に溜め込みやすい。もし上司の耳に入ったら、自分に不利な報復が予想されるからだ。

   そんなネガティブな感情のマグマが、「フツーの人」の健全な判断力をねじ曲げるプレッシャーになってしまう――。これがクレッシーの仮説である。

   管理職として、部下のストレスをゼロにすることは難しい。しかし、部下の仕事や私生活でどのような問題が起こるかを注視し、声を掛け、悩みを聞くことで、部下の心の中に人知れずマグマが蓄積するのを防ぐことはできる。

   昨今、コーチングが管理職研修の定番メニューになっているが、部下との対話力を高め、問題の抱え込みを防止する点で、実は横領対策にも密接に結びついているのである。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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