2024年 4月 20日 (土)

棒グラフを壁に貼っている会社は「ブラック営業」なのか

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   「ブラック会社の見分け方」として、「個人別の営業成績を棒グラフにして壁に貼っている」という項目を見かけることがあります。しかし、営業には実績ありきという側面が確かにあり、それを隠すだけでホワイト企業になれるわけではありません。

   問題は実績数値を、管理者がどう使い、どう評価しているかです。現場の管理職の評価のやり方が悪ければ、経営者や一人ひとりの営業マンが良心的な人であっても、「ブラック営業」が生まれてしまうことになるのです。

営業マンが「売っちゃった者勝ち」になる理由

悪いのは「棒グラフ」ではない?
悪いのは「棒グラフ」ではない?

   ある中堅企業から、営業部隊の改善コンサルティングの依頼があったときのことです。経営者の悩みは「営業に対するクレームが多く、クーリングオフも多いが、何をどう変えればいいのかアドバイスして欲しい」というものでした。

   そこで、クレームなどを多く生んでいる営業マンを追ってみると、意外にも会社から高い評価を受けている「営業成績優秀者」が多かったのです。

   最初は、実績件数が多い分、問題となる件数も多いのかなと思ったのですが、いくつかの職場では、クレーム発生率で見ても成績上位者の数名が突出していました。

   成績上位者のクレーム率が高いということは、企業イメージにも関わる由々しき問題です。コンサルティングチームは、この原因の究明から取り組むことにしました。

   顧客からのクレームをまとめたレポートを読んでみると、商品説明が不十分だったり、商品のリスク説明が欠けていたりと、優秀な営業マンがかなり乱暴な売り込みをしている実態が見えてきました。

   これは、個人の問題なのか。それとも体制の問題なのか。当事者のホンネを聞き出すしかないと思い、ある営業マンを捕まえて、ときには酒の席も設けて聞き出したのは、こんな声でした。

「とにかく所長も課長も実績至上主義で、『件数を多く取った者だけ評価する』とハッキリ言ってますから。クレームやクーリングオフが発生しても、本社で受けて実績から引かれますけど、それ以上の罰則はない。要するに(上司に)評価してもらうには、多少は『売っちゃった者勝ち』的な考えになっちゃいますよね」

「営業マンの実績最大化が管理職の役目」という所長

   この会社は経営者も含め、私が知る限り決してブラック会社ではありません。一人ひとりの営業マンも悪質な人間ではなく、件数を売ることだけをよしとされている環境で、素直に疑うことなく営業活動に精を出しているように見えます。

   しかし、顧客の視点から見れば、全体で行われていることは、まぎれもない「ブラック営業」。会社の都合だけを優先し、顧客の利益を平気でおろそかにします。この原因は「現場の管理職の評価基準」にあったのです。

   ちなみに、本社の人事部が作成した人事評価マニュアルでは、「実績」と「業務姿勢」を評価基準の2軸としていました。しかし問題の職場では、「実績」の高い者は、クレームやクーリングオフがいくら多くとも「業務姿勢」も良い評価がなされていました。

   一方、「実績」の低い者はおしなべて「業務姿勢」にも悪い評価がつけられていました。実質的には、マニュアルとは異なる“実績至上主義”が実践されていたのです。

   問題の多い職場の管理職に、「あなたの部下である営業担当者のミッションは何ですか?」と尋ねてみると、予想通りの答えが返ってきました。

「自社収益の増大に資するような、個別実績の最大化が担当者のミッションです」

   さらに営業所長からも、「営業担当者の実績を最大化させることがお前のミッションだ」と言われ、それを実現できるよう指導、管理していると明かしました。

   もちろん、この企業の経営理念には「顧客の繁栄を第一に考え」という文言が入っていますが、営業所長や管理職の認識の段階で「顧客」の存在がすっかり抜け落ちてしまっていたのです。

「担当者の役割」を再定義したら営業が変わった

   コンサルティングチームは、経営理念を踏まえて「営業担当者の役割」を再定義することから始めました。それは、次のようなものです。

「営業担当者は、顧客にとって販売者ではなく、サービス・コンサルタントである」

   これは、すべての業種に共通する営業の心得です。管理者も担当者もこれを忘れたときに、「ブラック会社のブラック営業」に足を踏み入れることになります。

   そして、この役割遂行を「実績」と同じレベルで人事評価に加える、新たな業績評価ルールを策定しました。クレームやクーリングオフの発生率は、ある一定以上の場合にはマイナス評価として反映させることにしました。

   ただ、問題の根本は、現場の管理職のせいだけではありません。管理職にそのようなマネジメントをさせている営業所長にも責任がありますし、元を正せば実績数値だけを見て「おたくの営業所は何をやっているんだ」とハッパをかけていた社長に源を発するのです。

   この一件で、社長は考え方を変えて「営業職はサービス・コンサルタントである」と大号令をかけ、これまでの評価の考え方を大きく変えるよう呼びかけました。研修などの教育制度の見直しも行いました。

   一連の取組みにより、営業担当者の意識も変わり、私たちがコンサルティングに入った翌年にはクレーム発生率が30%減り、その翌年にはさらに30%減となり、当初から半減したと報告いただきました。

   クレームの発生を「営業マン個人の能力、資質の問題」としか考えず、人を雇ってはクビにするという繰り返しで対処していたら、こんな改善は生まれなかったでしょう。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。執筆にあたり若手ビジネスマンを中心に仕事中の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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