2024年 4月 25日 (木)

残業45時間超が3か月続いたから「会社都合で辞めます」って!?

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   労働環境がキツすぎて、早く辞めないと身体がもたない。でも、自分から辞めると言い出したら「自己都合」になるので、失業保険の受給に時間がかかってしまう。つなぎで使える蓄えもないし、どうしたらいいのか…。

   そんな悩みを持つ社員が、どこからか「抜け道」を探してきたらしい。ある会社では、20代後半の社員が「自分が退職せざるを得ないのは会社のせい」なので、「会社都合」で辞めさせてほしいと要求してきたという。

「辞めるのは会社のせい。フツーに働きたいんだ!」

――広告代理店の人事です。営業部長から「部下がワケの分からないことを言っている」と連絡がありました。28歳の営業マンA君が、会社を辞めたいというのです。

   辞めること自体は仕方がないのですが、A君の主張は「会社都合で辞めたい」というもの。そうしないと、退職した翌月から失業手当がもらえないと言うのです。

   しかし会社は、A君に会社を辞めるよう勧めたことはないし、そうすべき事情もありません。営業部長が「どう考えても自己都合だろ」というと、こう反論したそうです。

「ここ半年くらい、月50時間以上の残業が、ずーっと続いてるんですよ。こんなに長時間まともに働いてたら、誰だって身体を壊しますって。私はフツーに働きたいんです。ここにいられないのは、長時間労働を強要する会社のせいなんですよ!」

   何となく分かるような、屁理屈のような気もしますが、「直近3か月で45時間を超える残業が続いていることは証拠に残している」「ハローワークに問い合わせたら大丈夫と言われた」とまで抗弁します。

   退職後もトラブルが続くのは厄介なので、多少の便宜を図ってもいいと思います。ただ、辞めるのは明らかにA君の都合ですし、理不尽に屈すれば、つけこまれて別のクレームが来るような気がします。

   A君の離職票の離職理由には「労働者の個人的な事情(一身上の都合)」にチェックして突き返そうと思いますが、何かリスクはあるものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
過度な残業で「職場における事情による離職」となる

   正確には「会社都合」ではありませんが、A君の主張は認められるでしょう。失業保険の受給手続きの際に「特定受給資格者」と認められると、会社都合と同じように支給条件が優遇されます。おもに倒産や解雇などによりやむなく離職した人が該当しますが、「解雇等により離職した者」の中には「離職の直前3か月間に連続して労働基準法に基づき定める基準に規定する時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため(略)離職した者」という項目もあるのです。

   これに対応する離職票の離職理由は「解雇」ではなく、「労働者の判断によるもの」の「職場における事情による離職」となります。ハローワークがA君の退職を「労働条件に係る重大な問題(賃金低下、賃金遅配、過度な時間外労働、採用条件との相違等)があったと労働者が判断したため」と認めれば、会社に照会した上で「特定受給資格者」となります。月45時間を超える残業が3か月以上続くと「過度な時間外労働」となるからです。これを認めることで会社の負担が増えるわけではありませんが、無用なトラブル回避のため、離職票のチェックは慎重にすべきです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
離職票の「離職理由」について納得させることが大事

   退職後に労使が揉めそうなポイントを考えると、離職票の「離職理由」について双方が納得しているかどうかが重要になると思われます。感情的なしこりが残っていると、会社が「労働者の一身上の都合」で離職票を作成しているのに、退職者が窓口で「実は違う」と申し出るおそれがあるからです。するとハローワークは事実確認のため、会社にタイムカードや賃金台帳、経過書などの提出を求めることがあります。

   例えば、残業代の適切な支払いを怠っていた場合、退職者が密かに集めた証拠を基に「実はこんなに残業していたから特定受給資格者になりますよね」と申し出るかもしれません。また、特定受給資格者の対象者には、職場いじめやセクハラ、パワハラがあったのに会社が適切な措置を講じなかったため退職せざるを得なかった人も含まれています。ハラスメントで「自己都合退職」に追い込んだつもりでいたら、ハローワークから照会を受けるおそれもあります。ハローワークがサービス残業やハラスメントを直接罰することはできませんが、失業手当の争いをきっかけに労基署などに訴えられるリスクが高まることは確実です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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