「君は31歳じゃなかったのか?」 会長秘書を年齢詐称で解雇したい

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   法律は募集・採用における年齢制限を禁止している。これによって求人広告では募集年齢を書くことができなくなったが、採用の際に会社が年齢による選別をしているかどうかは分からない。

   ある会社では、会長が設けた「秘書の年齢制限」を超えた人が働いていることが判明した。当人は「書類を書き間違えた」と言っているのだが…。

「仕事には関係のないこと」なので訂正せず

――製薬会社の人事です。弊社では会長室に2名の秘書を置いています。会長の指示で、秘書になれるのは25歳から35歳までの女性に限り、36歳以上になると他部署に異動するか、退職することになっています。

   もちろん採用も、この条件に合った人でなければなりません。雇用対策法があるので求人広告には書けませんが、採用時には年齢で足きりをしています。

   昨年、退職者が出たので中途採用を募集したところ、元客室乗務員で大手企業での勤務経験もあるAさんが応募してきました。諸々の条件に合致しており、面接でも好感度が高かったので採用を決めました。

   しかし入社1年ほど経って書類を整理していたところ、彼女の「年齢詐称疑惑」が持ち上がりました。履歴書の生年月日によると、入社時には31歳だったはずなのですが、社会保険の書類を見ると実は35歳で、今年36歳と書かれているのです。

   Aさんに確認したところ、「使い慣れない和暦の年数を書き間違えてしまったかもしれない」とのこと。社内の年齢制限ルールについては、

「入社してから知りましたが、自分からは申告しませんでした。仕事には関係のないことですので」

と平然と言っています。しかし会長に報告すると、顔色を変えて「許せない。Aクンは詐欺じゃないか!すぐに懲戒解雇したまえ」と激怒しています。

   就業規則の懲戒解雇事由には、確かに「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」という項目があります。これで解雇しても大丈夫でしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
懲戒解雇は難しいが異動や退職勧奨はありうる

   今回のケースでは、懲戒解雇は難しいでしょう。経歴詐称を理由とした懲戒解雇が有効かどうかは、次のような項目で判断されます。「真実を伝えていたら採用しなかったと思われる重大な経歴詐称かどうか」「企業秩序維持を困難にさせる可能性があるかどうか」「採用決定の判断において労働力の評価を誤らせたかどうか」「就業規則に定めがあるかといったこと」等々。いずれも学歴や職歴、犯歴の詐称で判断されることが多く、年齢詐称の場合は難しいのではないでしょうか。入社時の社会保険の手続きなどで年齢を確認できるので、会社にも落ち度があったといえるでしょう。

   とはいえ、Aさんの年齢詐称は、面接時には真実を述べるべきであるという「信義誠実の原則」に違反していますので、何らかの処分は下せるのではないでしょうか。秘書という仕事柄、会長との信頼関係が不可欠であることから、異動や退職勧奨もありうると思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
実績を評価して「時効」としてもいいのでは

   私は、懲戒解雇はもちろんのこと、退職勧奨もすべきではないと思います。法律は「募集・採用における年齢制限の禁止」を義務付けていますが、その趣旨は求職者個々人の能力や適性を判断し、働く機会を均等に与えることです。Aさんのような能力や経験のある人に働いてもらえないのは、会社としても望ましくないはずです。

   仮に会長が秘書に対して「会社の看板」であることを求め、容姿や若さを求めていたとしても、年齢だけで機械的に切るのはどうでしょうか。実際、Aさんは1年間業務を問題なく執り行っており、会社の要求・期待に応えてきた実績が存在するわけですから、入社時の「年齢詐称」は時効として不問とされてもいいと思います。会長に対しても、これまでの「年齢制限」を緩和するよう人事から提言できないものでしょうか。コンプライアンス面でのリスクが高いことも見直しの根拠になります。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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