勤務先に放火して横領隠し… 信じられないホントの事件

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   失礼な質問だが、もしあなたが会社のお金を横領し、近いうちに会計監査が入ると分かったとしたらどうするか。

・帳簿や銀行取引明細を改ざんする
・何とかお金を工面して、一時的に帳尻を合わせる
・見つからないことをひたすら祈る
・観念して上司に告白する
・雲隠れする

   中には、犯人が絶望して自殺してしまうという悲惨な例もある。人間、切羽詰まるといろんな行動に出るものだ。先日逮捕された長野県の元町役場職員(男性、47歳)は、勤務先に放火して全焼させてしまったという。

最初の横領額は60万円、建物の再建に2億円

監査の当日に放火という暴挙
監査の当日に放火という暴挙

   実はこの容疑者、公金横領の容疑ですでに逮捕、起訴されており、その後の取り調べの中で放火を自供したという。詳しい経緯はこうだ。

   2010年、容疑者は自らが会計を担当する自治協議会の預金口座から、2回にわたり約60万円を着服した。動機はガソリン代などの生活費にあてるためで、「軽い気持ちでやってしまった」と供述している。短絡的な犯行だ。

   その後、2012年4月6日に協議会の会計監査が入ることになり、時間稼ぎのためか、容疑者はさらに短絡的な暴挙に出た。監査の当日未明、勤務先である町役場の支所に忍び込んで火をつけたのである。

   支所および隣接する公民館が全焼し、監査は4月末まで延期となった。その間に容疑者は、焼失したことにした預金通帳などをシュレッダーにかけ、別のところから横領したカネで不足額を穴埋めして監査を乗り切ったようだ。

   しかし、悪事は必ずバレる(そう願いたい)。5月下旬に住民から協議会の会計が不明瞭だと指摘があり、6月に行われた町の調査で横領が発覚。容疑者は事実を認めて着服金を自主的に返還したが、7月25日に町を懲戒免職になり、同日警察に逮捕された。

   建物の再建や備品の購入には約2億円かかるという。文字どおり取り返しのつかないことをしてしまった。傍目には「会計監査が入ると分かったときに、観念していれば」と思ってしまうが、罪を犯した人間の心理は制御不能になるのかもしれない。

町が監査を抜き打ちで行っていれば…

   軽い気持ちで横領し、それを隠すために職場に平気で火をつけてしまうような人物を、周囲はどう見ていたのだろうか。

「まじめで明るい性格」(元同僚)
「快活な性格で、一生懸命仕事に取り組んでいた。地域の人から信頼され、特に子供たちがなついていた」(全焼した公民館の館長)

   意外に感じるかもしれないが、横領犯は周囲から信頼され、高く評価されていることが多い。見るからに「危ない」人には、そもそもお金の管理など任せないからだ。

   横領は周囲の信頼を逆手にとり、それに背く犯罪である。裏切られた人間は「まさか」「信じられない」と驚き、落胆し、憤る。町の人々のショックは察するに余りある。

   このような犯行を許してしまった町の管理体制にも、大いに反省すべき点はある。横領の発覚を受けて、町では「職員が扱う関係団体の会計処理で複数の職員がチェック」するなど9項目の再発防止策を決めたそうだ。

   複数の職員がチェックしていなかったのは驚きだが、このような基本ができていない組織は少なくないだろう。ダブルチェックはもちろん、経理・会計担当者の長期休暇中の点検や定期的な担当替えも徹底したい。監査を抜き打ちで行っていれば、放火という悲惨な事態を防げたかもしれない。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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