「内部告発者を懲戒免職にはしない」 橋下市長のまっとうな見解

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   あなたの会社に「内部通報制度」はあるだろうか。内閣府国民生活局(現・消費者庁)の調査によれば、従業員1000人超の民間事業者の9割以上が内部通報制度を導入している。一定規模以上の会社では、当たり前の制度になったといえるだろう。

   では、あなたが社内で法令違反などの問題を見聞きしたら、ためらわずに通報できるだろうか。いざというとき、あなたの会社の内部通報制度は「使える」と思うだろうか。

大阪地裁、平松市長時代の処分取り消しを命ずる

内部告発が「密告」と言われる日本を変える
内部告発が「密告」と言われる日本を変える

   同じく内閣府の労働者向け調査では、上司や内部通報制度を通じて勤務先に通報すると答えた人は33%にすぎない。残り7割弱は、通報をためらう理由として、

「解雇等の不利益扱いを受ける恐れがある」
「通報しても十分に対応してくれないと思う」
「職場でいやがらせを受ける恐れがある」

といった疑いをあげている。通報制度を導入しても、使う側の信頼感を高めるのは容易ではない。「使える通報制度の導入率」でみれば、かなり低い数字となるのではないか。

   実際、内部通報により通報者が不利益を受けることがある。2010年に発覚した大阪市環境局河川事務所(昨年10月廃止)の事件では、同僚の不正(回収ゴミからの金品抜き取り)をビデオで隠し撮りして告発した職員(A氏)が、抜き取りへの関与などを理由に同僚ら5人とともに懲戒免職となっている。

   A氏はこの処分取り消しを求める裁判を起こし、8月29日に大阪地裁で判決が下された。裁判長は大阪市に対し、「内部告発で長年の不正行為が是正された」ことを考慮すれば、懲戒免職処分は「裁量権の範囲を逸脱して違法」との判断を下し、処分取り消しを命じた。

   判決を受けて会見した橋下市長は、「基本的に控訴しない。僕は内部告発者をできる限り守っていきたい」と語った。橋下氏は、懲戒免職処分が下されたときは大阪府知事であったが、次のように述べて当時の平松市長の対応を批判していた。

「僕なら免職にはしない」
「自分が何も手を染めていない内部告発なんてあり得ない」
「(免職処分は)ある意味、内部告発をするなというメッセージだ」
「告発は、首長が知らなかったことを摘発してくれた大金星だと思っている」

内部通報が信用されなければ告発は外部に漏れる

   A氏の弁護団も「内部告発が密告と言われる日本で、告発者保護の観点から一定の前進があった」と大阪地裁の判決を評価している。今回の判決は、橋下知事が力説したスタンスの適切性を裏付けたともいえる。

   ところで大阪市は、公益通報者保護法が施行された2006年4月に、組織内に通報窓口を設置しており、その後、外部窓口も設けている。A氏はなぜ、マスコミ等に直接告発せざるを得なかったのか。

   テレビのインタビューに対してA氏は「こうするしかなかった」と語っている。上司である所長に是正を求めたが、状況が変わらず危機感を抱いたそうだ。内部通報窓口を使わずに外部へ告発したのであれば、適切なやり方ではなかったとも言えるが、当時の職場の風土は、それほどまでに信用の置けないものだったのかもしれない。

   先月13日に消費者庁の「行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査」によると、大阪市が昨年度受理した内部通報の件数は561件であり、政令指定都市の中で断トツである(2位は神戸市の33件)。

   個人的な不満なども少なくないのかもしれないが、「通報者を守る」という橋下市長の姿勢が職員に伝わり、組織内で声を上げやすくなったのであれば、一歩前身である。これを一過性のものとせず、一つひとつの声に耳を傾け、組織風土の改善に活かしてもらいたい。

   内部通報に対しては、まずは組織のトップが寄せられる声を厄介払いせず、自分の知らない問題を指摘してくれる有難いものと考えることが必要だ。その姿勢が職員に伝われば制度への信頼感は高まり、組織の自浄機能も強化される。A氏のように、思い余って盗撮ビデオをマスコミに渡す事態も防げるだろう。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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