どう処遇する? 「もうプレッシャーかけないで」と逃避する管理職

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   学校や地方自治体には「希望降格制度」があり、管理職が自らの意思で職位を下げることができるしくみがある。健康や家庭に関するプライベートな問題だけでなく、仕事上のストレスなどから「降格」を選ぶ人も少なくない。

   しかし、民間企業では、このような制度を導入するところはみられない。ある会社では、成績不良の管理職から「ノルマのない部署への異動」の希望を伝えられたが、どう応えるべきか人事担当が頭を抱えている。

聞き入れてよいか「ノルマのない部署への異動」

――製造業の人事です。営業部のA課長について、来期の処遇を検討しています。A課長は40代半ば。担当する課の成績が芳しくなく、問題視されています。

   期末の目標も達成できない見込みで、先日の全体会議でも社長から叱責を受けていました。

   それでも課長は、定時でまっさきに退社。遅くまで残って働いている部下からは「オレたちに仕事を振ってばかりで、自分だけラクをしている」と不満があがっています。

   このままではいけないと、人事で状況確認の面談を申し出たところ、

「もう私にプレッシャーをかけるのは、やめてもらえますか? これ以上、仕事はできません。ノルマのない部署に異動させてください」

と不満そうな顔で言われてしまいました。しかし、他の部署と言われても、30名ほどの小さな会社なので、異動先もありません。

   ただ、気になるのは、以前は問題なく業務を行っていたのに、仕事へのモチベーションを急に低下させたように見えるところです。

   何かプライベートで問題を抱えているのでは、と尋ねたのですが、「そんなこと関係ないじゃないですか。仕事じゃないことについては話しませんよ」と硬い表情で言い返されてしまっています。こういうときは、どう対応したらいいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「楽な仕事に変えて」には安易に応えるべきでない

   A課長は、もうやる気をすっかり失っているようですね。「部下に仕事を振って自分は早く帰る」という部分だけでは、マネジメントのやり方として一概に悪いとは言えませんが、「担当課の業績が上がらない」うえに「仕事のモチベーションを著しく下げている」という点は大きな問題になります。管理職として不適格ということになるでしょう。Aさんの経験や能力にもよりますが、降格して一営業マンとして働いてもらうことも考えられます。

   異動については、30人規模の会社では異動先も限られるでしょうし、「やる気がなくなった。楽な仕事に回して欲しい」という要求に簡単に応じることは悪い前例にもなりかねません。会社に対する貢献意欲がない人を雇う余裕はないでしょう。仕事のパフォーマンスが悪いことを理由に、退職勧奨をしてはどうでしょうか。それでも本人が拒否するのであれば、注意指導を積み重ねて解雇することも考えられます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「プライベートは仕事と関係ない」と放置するのは危険

   仕事のモチベーションが急に下がったということですが、個人的な病気や家族の問題などプライベートで何かあるのかもしれません。このような状態を放置すると、ミスや事故、不正など会社に損害を与える行為につながるおそれもあります。「プライベートは仕事とは関係がない」と放っておくことは、上司や人事部の責任を放棄することになります。

   一方で、本人が望まないのにプライベートな問題に立ち入ることには注意を払うべきです。過度な場合、「パワハラ」と見なされるおそれもあります。従業員支援プログラムや公的窓口など、秘密が守られる形での相談方法について情報提供をしつつ、「何か力になれることがあれば言ってくださいね」と声をかけるだけでも、相手が楽な気持ちになる可能性があります。ただし、脱法行為や命の危険がある兆候が見られる場合には、本人の合意が得られなくても警察に通報するなどそれを止めさせる介入が必要です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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