入社直後から「横領ざんまい」 2億8000万円の損害を与えた経理社員

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   2013年最初のコラム。今年こそ不正のない年に――と祈りたいところだが、残念ながらそれは叶わぬ夢である。「企業にヒトが欠かせない限り、不正もなくならない」という現実をしっかりと見据えて、リスクへの感度を高め続けなければならない。

   今回紹介するのは「横領目当てで入社したのではないか」と疑われるようなケースだ。1月6日、愛知県の鋼材商社の元社員A(男性、51歳)が、業務上横領容疑で逮捕された。2011年6月に総務・経理の統括者として中途採用され、会社の預金通帳や届出印の管理を一任されるようになる。その立場を利用し、入社直後から横領に手を染めていた。

FXに株、クラブ遊び… 「動機」満載の男性を中途採用

「企業にヒトが欠かせない限り、不正もなくならない」という現実を見据えて
「企業にヒトが欠かせない限り、不正もなくならない」という現実を見据えて

   Aは、鋼材商社の仕入先として怪しまれない金属輸入会社(実態のないペーパー会社)を設立。通帳・印鑑を不正使用し、仕入れ代金の支払いを装って、銀行窓口からペーパー会社あてに不正送金を繰り返した。

   2012年8月に顧問税理士が決算書類をチェックした際に、資金の不審な動きに気づいて発覚。不正送金は約30回行われ、鋼材商社の損害は2億8000万円に上る見込みだ。同社の最近の年商は32億円。最終利益率5%とすると、約2年分が吹っ飛んだことになる。この事件で同社が破綻し、従業員が路頭に迷わなければいいが…。

   警察の調べに対してAは容疑を認め「外為証拠金(FX)取引や株取引に1億円以上投資し、数千万円の借金返済にも充て、クラブなどでの遊興費にも月数百万円つかっていた」と供述している。入社直後から犯行に及んでいることから、Aは最初から横領の動機を抱えて入社したのだろう。

   経営陣にとっては痛恨の極みであり、「信頼して任せたのに…」とAを恨んでいるだろう。もちろん悪いのはAであり、法的、社会的に厳しい裁きを受けるべきだ。しかし、会社側も「リスク管理が甘すぎる!」と非難されても仕方がない。

   まず、採用選考においてAの経歴や人柄を見極める努力をしただろうか。Aは以前からFXや株取引にどっぷりと浸かっていた可能性もある。経理の要職に中途採用するのであれば、面接において求職者のカネ遣いや借金の状況をできるだけ確認したい。「カネにだらしない」匂いがしたら、少なくともカネを扱う部署には雇わないのが得策だ。

   中途採用者の面接は特に重要であり、決して形式的に済ませてはならない。たとえ知り合いの紹介だったり、魅力的な履歴の持ち主だったりしても、経営者は必ず自分の目と耳で見極める必要がある。

「全幅の信頼を置いている」という管理責任放棄

   報道によれば、Aは「3、4年前まで広告代理店に勤め、その後は定職に就いていなかった」そうだ。ここ数年間の職歴を細かくチェックしていれば、何らかのアラームが鳴ったのではないか。もちろん、履歴書にはいくらでもウソを書けるが、面接で細かく質問すればボロが出るだろう。

   さらに、お決まりのパターンであるが、「経理を一任する」のは非常に恐ろしい。よく「彼(彼女)には全幅の信頼を置いている」と言う経営者がいるが、それは管理責任放棄に等しい。

   中小企業であれば、経理を一人にやらせなければいけない現実もあるだろう。その場合には、社長自らが毎日のカネの動きをチェックすべきだ。この事件は、振込先をまめに精査していればすぐに分かっただろう。また、最終的に税理士が気づいていることから、多少コストを掛けてでも、税理士に毎月チェックしてもらうこともできる。

   今年も多くの横領事件が報道されるだろう。それは氷山の一角かもしれない。自分の会社では決してありえない、という保証はない。横領の動機は誰にでも生じ得るし、「見つからない」と思えば、あれこれ理由をひねり出して不正を正当化してしまう危うさがあるからだ。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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