終身雇用とは「数十万円トク」というだけで逃げ出す人材の量産機械

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   地方公務員の駆け込み退職が問題となっている。年度末に定年退職をひかえた人が、退職金が引き下げられる前に数か月前倒しで退職し、数十万~百万円程度を“上乗せ”受給する問題だ。

   通常、自己都合で退職する場合は退職金が減額されるから、退職金が切り下げられることになっても自分からは手をあげないものだ。ただし、自治体によっては60歳到達後、年度末に定年退職するまでの間に自己都合で退職する分には減額されないという“穴”があった。退職金の切り下げ条例を作る際、そういう穴をセットでふさいでおかなかった自治体のミスといっていいだろう(東京都はきちんと対応している)。

   多くの民間企業では、割増退職金を払って一生懸命中高年を辞めさせようとしているわけだから、公務員にだけ「金で動くな」と説教してもナンセンスだ。

――さて、以上は現制度の中で対応することを考えた場合の模範解答である。実は上記のロジックには、深刻な矛盾が含まれている。終身雇用制度の根幹にかかわる問題なので、以下でじっくり説明しよう。

「今の仕事って面白いよ」と言える人を増やすことこそ、日本経済復活の第一歩

   考えてみれば妙な話である。自己都合で退職したら退職金減額ということは、長く勤めれば勤めるほど組織にとって魅力的な人材になっているということだ(でないと長期勤続者に割高な退職金を支払う辻褄が合わない)。

   申し訳ないけれども、筆者には、目の前に出現した“条例の穴”というエアポケットに脇目もふらずに飛び込む60歳が、組織にとって魅力的な人材だとはとうてい思えないのだ。だとすれば、たかだか数十万円が云々という議論よりも、我々はこの奇妙な賃金制度そのものを議論すべきではないだろうか。

   具体的に言えば「60歳まで勤めればいっぱい出しますよ、でも途中で自己都合で辞めた人は大幅減額しますよ」的なさじ加減で、人為的に個人を組織に縛りつけているのが現状の終身雇用および退職金制度であり、国も退職金優遇税制等でそれを後押ししている。大昔には、そうやって長く勤めてもらうことでより良い人材に成長してもらおうという狙いがあったのだろう。

   でも実際には、多くの組織の中で、個人と仕事の関係はいつのまにか個人と組織の従属関係に置き変わってしまっている。これまで何十年と実務をこなしてきた公務員たちが、エアポケット的に目の前に出現した条例の穴に歓声を上げつつ飛び込んでしまう現実をみると、筆者はどうしても、彼らの仕事との希薄な関係を感じずにはいられない。

   たった数十万ですべてをかなぐり捨てて逃げ出すほどのものしか、彼らは組織の中で育んではこなかったわけだ。

   これは恐らく、日本中のあらゆる組織で大なり小なり見られるものだ。各種の調査でも、日本人の仕事に対する満足度は先進国中最低レベルだ。きっとどこの会社にも、目の前にエアポケットが現れれば、脇目もふらずに飛び込もうと待ち構えている人たちが一定数はいるはずだ。

   筆者自身の提案は、定年や退職金制度自体を見直し、勤続年数や組織の格に縛られない社会をつくることだ。そうすれば辞めたい人はもっと早くに組織を去り、やる気のある人が集まるだろう。「今の仕事って面白いよ」と言える人を増やすことこそ、日本経済復活の第一歩だというのが筆者の意見だ。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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